東京都議会は2017年7月に改選を迎える。新知事にとって、次の都議選で「都議会のドン」と呼ばれる自民党東京都連幹事長の内田茂・東京都議(77)に “刺客候補”を送って勝利することが、都政のヘゲモニーを奪う最大のチャンスといえる。
だが、この人物は転んでもただでは起きない。これまで落選中も都政をコントロールするという離れ業を演じてきたからだ。
自民党は2009年7月の都議選で大敗して第一党の座を民主党に奪われ、ドンの内田氏も落選。1か月後の総選挙では181議席を失って政権から転落する。
都連では生き残った国会議員から石原伸晃氏の都連会長引責辞任を求める声があがった。が、内田氏は伸晃氏を留任させたうえで、議席を失ったにもかかわらず自ら都連幹事長に留任したのだ。「議席を持たない幹事長」は前代未聞だった。
政治家は「選挙に落ちればただの人」といわれるが、内田氏は落選中も都政への力を全く失わなかった。
都議会の自民党控室に設けられた「顧問室」に陣取って従来通り、役人の人事から都政の重要事項まで指示を飛ばした。
それだけではない。内田氏は、前回都議選で返り咲きのために無理を重ねた。選挙事務所を開くにあたって地元にビール券を配ったのだ。選挙区内の有権者への金券配布は公選法違反だ。
警視庁は捜査に動き、本人を書類送検した。ところが、東京地検は最終的に「違法性が認められるが、金額が少ない」という理由で不起訴処分にしたのである。政治資金に詳しい岩井奉信・日本大学法学部教授がいかに異例な処分だったかを指摘する。
「自民党の小野寺五典・代議士は初当選時、選挙区内の有権者に線香セットを配布した事件で有罪(罰金40万円の略式命令)とされ、公民権を3年間停止されて議員辞職に追い込まれた。内田氏の場合、金券を配ったのだから小野寺氏より悪質性が高く、金額も線香セットより高い。それなのに起訴されなかったのは不公正ではないか」
まさに、金券で有権者を買収してもお咎めなしという都政のドンに対する“不起訴特権”というべきか。
だが、そのドンに新たな疑惑が浮上した。内田氏は落選中、地元・千代田区に本社を置く「東光電気工事」の監査役に就任し、現在も都議と兼職している。同社は五輪特需で業績を伸ばし、今年1月には東京都発注の2つの競技施設建設を大手ゼネコンと共同で受注した。
しかし、地方自治法92条の2では、地方議員がその自治体の事業を請け負っている企業の役員を兼ねることを禁じており、違反すれば「その職を失う」(147条)と定めているのだ。
「兼職」にあたるかどうかは議会が判断するが、果たしてここでもアンタッチャブルさを発揮するのか。新都知事とドンの戦いのゴングは、不穏な音色で鳴り響いた。
※週刊ポスト2016年8月12日号