元横綱・千代の富士の九重親方が7月31日、膵臓がんのため61才で亡くなった。最期の最期まで気力を燃やし続けた闘病生活は過酷なものだった──。
九重親方は昨年6月1日に還暦を迎えた。その前日、太刀持ちに横綱・白鵬(31才)、露払いに横綱・日馬富士(32才)を従え、両国国技館で堂々の「還暦土俵入り」を披露した。
「親方は毎年、都内の大学病院で誕生月の6月に精密な健康診断を受けています。現役時代の無理がたたって、早くに亡くなる元力士は多いので、おかみさんのすすめで必ず受けていました。そこで膵臓がんが見つかったんです」(相撲関係者)
膵臓がんは発見が難しく、見つかった時にはすでに進行しているケースが非常に多い。根治するには外科手術で病巣を完全切除するしかないが、手術したとしてもリンパ節への転移などで約7割が再発し、5年生存率は極めて低く、5%ほどとされる。
「親方は昨年6月下旬に緊急の摘出手術を受けました。さすがにショックを受けたのか、翌7月の名古屋場所は『内臓疾患』を理由に休場しました。ただ、幸いにも早期発見だったので、根治の期待も高かった」(前出・相撲関係者)
9月の秋場所に復帰した際には、自ら「膵臓がん」を公表し、「早期発見ということで問題はない。治療は続けているけれど、もう健康体だから大丈夫」と笑顔でマスコミの取材に応じた。
「摘出手術で一安心と思われていた矢先、検査で他の複数の部位にもがんが転移していることがわかりました。しかも、これも治療が難しいとされる胃や肺など4、5か所に転移していました。親方は家族などごく限られた人にしか『転移がん』を明かしませんでした。そして、絶対に内密にしてほしいと。体が悲鳴を上げても弱音を吐かずに闘い続けた現役時代と同じで、周りに心配をかけず、がんとも闘い抜く決意をしたのだと思います」(九重親方の古くからの知人)
アルコール度数70を超えるロンリコを嗜むなど、九重親方の酒豪ぶりはよく知られているが、がんと診断されて以降、一滴も口にしなかった。親しい後援会関係者には「しんどいけど、闘病に引退はない」と闘志を込めて語っていたという。
しかし、外科手術では病巣を取り除ききれないほどがんは全身に転移していた。現在のがん治療の常識では、そのような場合、「抗がん剤治療」を勧められる。
問題はその副作用だ。抗がん剤は正常な細胞にも作用してしまうため、ひどい吐き気や全身のだるさ、食事が喉を通らず、髪の毛も抜け落ちるなどの激しい副作用に襲われることが多い。
「九重親方は鹿児島にあるがん治療専門クリニックで受けられる特殊な放射線治療を選びました。それならば抗がん剤を使わなくて済み、髪の毛も抜けず、周囲に気づかれずに普段通りの生活ができます。家族のために少しでも元気な状態で生きて、相撲でも後進を育てていきたいという一心だったんでしょう。人生の最期まで父親であり、親方であることを選んだのだと思います」(前出・知人)
※女性セブン2016年8月18・25日号