いま、歯科治療で最大の課題となっているのが、感染症患者への対応である。B型やC型肝炎、HIV(エイズウイルス)などは血液を介して感染するため、出血が起きやすい歯科治療での感染リスクが指摘されているのだ。
C型肝炎を最近完治させた、元養護教諭の出田妙子さん(58)は20年間、歯科治療を受けずにいた。
「歯科医院では問診票に“肝炎ウイルスに感染していますか”という設問があります。それを申告して差別的な対応を受けた人がいましたし、子供がイジメを受ける可能性があるので、周囲に肝炎患者だと知られたくなかった。だから20年間我慢していました」
集団予防接種の使い回しでB型肝炎ウイルスに感染した、大山美紀子さん(62)。銀歯の下で虫歯が進行したため歯科医院に通院しているがこんな扱いを受けた。
「B型肝炎患者だと告げたら、“消毒の関係で、午前中の最後か、夕方の最後に来てくれ”といわれました」
さらに、治療中のうがいを禁じられ、毎回苦しい思いをしているというのだ。
「誰かの感染原因に絶対なってはいけない。そう思うので必ず申告しますが、その日の最後の治療を指定される理由は、感染対策が不十分だからですよね……」
2014年、高知の歯科医がHIV陽性者の診療を拒否したことが報じられた。日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス代表理事の高久陽介さんは差別的な対応は珍しくないとする。
「問診票にHIVと記入したら、違う部屋に連れていかれたり、歯科医が防護服みたいな全身物々しい装備で現われることもあります。“何でうちに来たの?”といわれたりもする。
仲間たちは感染源として扱われることを強烈に認識するといいますし、傷つきます。HIV陽性者に行なったアンケートでは、約3分の1が医療機関に感染を申告していませんでした」
久留米大学が肝炎患者を対象に調査した結果、約3割が歯科治療の際に肝炎患者だと申告していなかった。
●取材・文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年8月12日号