「死ぬほど痛い」という表現がある通り、人は死=痛いものと無条件に思い込んでいる。確かに、くも膜下出血や急性心筋梗塞のようにバットで殴られたような激痛で苦しみながら死ぬ病気はあるが、しかしその一方で、実は死ぬ瞬間、痛みをほとんど感じることのない病気もある。それこそ「苦しまない死に方」ができる病気である。米山医院院長の米山公啓氏の話だ。
「苦しまない死と聞いて思いつくのが、致死性の不整脈です。心拍数が乱れ不整脈になると、全身に血液を循環させる心臓がポンプ機能を果たせなくなるため、わずか数秒で脳に血液が回らなくなり意識を失います。発症から約3分で脳死状態に陥り、苦痛を感じることなく絶命する。睡眠中に不整脈が起こることも珍しくなく、その場合、目を覚ますことなく死に至ります。“次に起きた時は死んでいた”という状態です。ある意味、理想的な死に方と言えるかもしれません」
本人は死んだことさえ気づいていない──そんな死に方があるのである。
脳卒中の場合でも、痛みや苦しみをほとんど感じることなく死を迎えるケースがあるという。呼吸や心臓の拍動をコントロールしている脳幹で出血が起こる脳幹出血になると、即死に至るケースが多い。一瞬の出来事のため、これも痛みをまったく感じずに死ぬことになる。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号