大田区と江東区は中央防波堤をめぐって紛糾
「江東区はいわばあの地を実効支配していると言える」。
2012年6月13日の江東区議会で、山崎孝明・江東区長はそう豪語した。“あの地”とは東京湾に浮かぶ「中央防波堤埋立地」(以下、中防)のこと。1973年から始まったゴミの埋め立てで生まれた島だ。
今、この島の帰属をめぐり、大田区と江東区の間で“領土紛争”が起きている。東京のような過密都市では、自由に開発ができる手つかずの土地は貴重であり、面積が増えれば地方交付税が増えることもあるからだ。
大田区側は、「もともと中防のある場所は大田区の海苔養殖事業者が利用していた」と主張。一方の江東区は、「埋め立てによる悪臭やハエの発生、ゴミ運搬車による汚汁の飛散などに区民は苦しめられてきたから帰属は当然」と譲らない。
冒頭の山崎区長の「実効支配」とは、中防での建設許可の事務処理を江東区が担当していることを指す。
江東区側は、「トップの発言ですが、今まで江東区が行政手続きを担ってきたので、そのまま帰属させるほうがスムーズという意味だと思います。東京ゲートブリッジも完成し、五輪前には海底道路の南北線も開通して、江東区と中防はますます密接になります」(港湾臨海部対策担当)という。
それに対し、大田区側はこう反論する。
「事務処理に関する暫定措置の覚書には、『帰属決定問題にはなんら影響を及ぼすものではない』と明記されています。江東区はそれを伏せて実効支配と言っている」(企画課)
江東区の攻撃は続く。とりわけ大田区側の神経を逆なでしたのが、『こうとう区報』(15年8月21日)の「2020年東京オリンピック競技会場決定」という記事。中防が会場になる馬術とボート・カヌーも、江東区内の開催競技として紹介していたのだ。
「さすがに『なんだこりゃ』と思いました。江東区に抗議しましたが、明確な謝罪はありませんでした」(大田区企画課)
ここにきて大田区も反撃を開始。2016年3月25日の区議会で、中防の全島帰属を求める決議を採択し、『おおた区報』(2016年6月1日)で1986年の最高裁判決を引き合いに出しながら、歴史的沿革を理由に帰属の正当性を訴えた。
現在は、両区で事務レベルの協議会がもたれているが、両区とも全島帰属を主張し、平行線を辿っている。
既成事実を積み上げ、実効支配を続ける江東区と、歴史的沿革を理由に正当性を訴える大田区。両者のバトルはおさまる気配もなくヒートアップしている。
※SAPIO2016年9月号