「いまの世の中を一言で言えば『いちいちうるせえな』、これに尽きますよ」――本誌・女性セブン8月18・25日号に掲載された佐藤愛子さん(92才)のインタビューを引用した、《本当に現代日本に生きる人間全ての心に納めておいて欲しい言葉》というつぶやきに、2万6000を超える人がリツイートをし、2万3000を超える人が「いいね」を押した。
早くも「今年いちばんの流行語」という声も上がる「いちいちうるせえ」という言葉は、佐藤愛子さんのエッセイ集『九十歳。何がめでたい』に収録された1編の題名だ。
これについて瀬戸内寂聴さん(94才)は、女性セブンのインタビューで《「いちいちうるせえ」なんて、こんなことをわれわれの年のおばあちゃんが思っていても言えませんが、愛子さんははっきり書く。だから私は、彼女の言葉にパチパチって手を叩くんです》と大絶賛したが、それは実は老若男女を問わず、多くの人にとって、今の社会に対する実感でもあったということ。
本書が世代を超えて大きな共感を呼んでいる理由について、書評家の温水ゆかりさんは、こう分析する。
「佐藤さんのエッセイはこれまでも長く人気を博してきましたが、年々そのユーモア精神は磨かれていて、この『九十歳。何がめでたい』でも、ますます冴え渡っています。今は世の中が昔ほど単純ではなくなり、あっちに気を使い、こっちに気を使わなければならなくなっていますが、佐藤さんは変わらず、磨かれた刀でズバッと一本切りにする。だから一層、鋭さが増して見えるのではないでしょうか。
かつては爽快と感じられたエッセイは今や、爽快にして痛快。読むと気持ちがスカッと晴れます。私のごくごく周りの話ですが、この本を近所のおばあちゃんたちに読ませたら、本が駆け巡って(笑い)。老人は胸の内に鬱々と籠もっていることがあるんです。それを佐藤さんがズバズバと切れ味鋭く書いているのが小気味良いと。92才のおばあちゃんは『読み始めたら止まらなくて3時間かけて読んでしまった』って(笑い)。とにかく大評判です」
爽快にして痛快の本書に綴られた名言をご紹介します。
《もっと便利に、もっと早く、もっと長く、もっときれいに、もっとおいしいものを、もっともっともっと……。/もう「進歩」はこのへんでいい。更に文明を進歩させる必要はない。進歩が必要だとしたら、それは人間の精神力である。私はそう思う。》
(「来るか? 日本人総アホ時代」より)
《人はみな多かれ少かれ、自分の人生を自分なりに満足いくものに作るために目に見えぬ血を流しているのです。当りさわりのない人生なんて、たとえ平穏であったとしてもぬるま湯の中で飲む気の抜けたサイダーみたいなものです。》
(「人生相談回答者失格」より)
《たとえ後悔し苦悩する日が来たとしても、それに負けずに、そこを人生のターニングポイントにして、めげずに生きて行くぞという、そういう「覚悟」です。それさえしっかり身につけていれば、何があっても怖くはない。私はそんなふうに生きて来た。》
(「覚悟のし方」より)
※女性セブン2016年9月8日号