警察権力の暴走は、いつの時代にもどこにおいても起こり得ることだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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中国人民大学法学院に通っていた29歳の修士学生の死をめぐって中国のネットで大きな議論が巻き起こっている。ネット上での騒ぎは5月に始まったのだが、いまだに社会の注目度は高い。
事件が起きたのは5月6日。法学系の大学院に通う雷洋は家族を迎えに行くため空港へと向かったのだが、その途中、中国で「嫖娼」と呼ばれる風俗マッサージの店に立ち寄ったのだった。そして当日、取り締まり強化のために店を取り締まっていた北京市昌平区の警察から尋問を受けることとなったのである。
通常、中国であっても風俗店に出入りしただけで大事になることはまれだ。複数で行って、リーダー的な存在が「斡旋した」と判断されるととんでもない重い刑になることもあるが、一人で行ったのであれば本来ならば面倒な問題に発展することはあまりない。
ところが雷洋は取り調べに抵抗し、手錠をかけられ警察車両に入れられてから、次に出てきたときには死体となっていた。
家族が遺体と対面したとき、全身に殴られた跡があり、とくに陰部の損傷が激しかったとされている。
家族はすぐに弁護士を立て警察の取り調べの違法性を問う裁判を起こしたが、これと同時に雷洋の通っていた大学でもこれを問題視し討論会が行われるなどしたため、雷洋に対する過剰な取り調べ問題は一気に大きな社会問題となっていったのだった。
そして問題が拡大する過程で注目を集めたのが、今回加害者となった警察が、正規の警察官ではなく「補警」であったことだ。捕警とは補助警察のことで、一種の警察業務のアウトソーシングである。
「もともとは海洋での人手不足に対応する制度でしたが、いまは面倒くさい仕事を秘跡に丸投げする流れの中に位置づけられています。中国でもいまはコンプライアンスがうるさく問われていますから、いざというときにトカゲの尻尾切りができるようにしておくということです」
責任逃れから非正規にどんどん丸投げする。中国もそういう時代に入っているのだ。