横浜にある鶴見大学歯学部附属病院では、一般のクリニックなどから紹介された重度の歯周病患者らが治療を受けている。
この日、受診した60代男性は、歯周病によって歯が5本しか残っていない。主治医の五味一博教授が、男性の歯周ポケット(歯と歯根の隙間)にプローブと呼ばれる器具を入れて、深さを計る。
「歯周病の状態は歯周ポケットの深さで診断します。健康なら2ミリ程度ですが、この方は6ミリ以上ですね」
そして、五味教授が男性の歯周ポケットから、プラーク(歯垢)を掻き出した。その瞬間、腐敗臭のような強烈な匂いが治療室に広がった。本人は自覚していないが、歯周病が原因の強い口臭は中高年男性に多いという。
「歯周病治療の基本はスケーリング&ルート・プレーニング、略してSRPです。歯周病の初期段階である『歯肉炎』は、歯肉の部分のプラークや歯石(プラークが固まって容易に除去できなくなったもの)を超音波スケーリング等で除去すれば完治できます。
しかし歯周病が進行すると、歯周ポケットが深くなって、ポケットの底までプラークや歯石が付着します。放置すれば、歯周病菌によって歯が抜けてしまうので、キュレットという細い刃がついた器具を使い、手作業でプラークや歯石を削るように除去します。これがルート・プレーニングです」
五味教授によると、歯石が取りきれない場合、「フラップ手術」を行なう場合もある。これは歯茎にメスを入れて開き、歯根に付着した歯石などを直接除去する方法だ。治療後、重度の歯周病患者の男性に話を聞かせてもらった。
「40代の頃、歯が少し揺れる程度でしたが、いつの間にか歯周病が進行して歯が抜けてしまいました。そうなる前に、しっかり治療を受ければ良かったと後悔しています」
歯周病治療ガイドラインの作成委員を務めた五味教授はこう警告する。
「SRPで大半の歯周病は完全に治せます。ただし、自覚症状はないので、定期的な検査が大切です。これから高齢化社会を迎えて歯周病患者が凄く増えて大変になるでしょう」
■文・岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年9月16・23日号