2つある巨大な駐車場は満車となり、いたるところに人、人、人…。9月に入ってもなお、レジャー施設『東京サマーランド』は家族連れやカップルでにぎわっていた。
「あの事件の後だからすいてるかな~と思って来たんですけどね(苦笑)。入園時にゲート式の金属探知機を通って、手荷物検査を受けるんですけど、検査といってもカバンの口を大きく開けて、手を少し入れるだけ。これじゃあ、刃物を持っていても気がつかないですよね。セキュリティーチェックがゆるくてびっくりしました」(40代の女性客)
“あの事件”とは、8月21日、18~24才の女性9人が尻や下腹部などを水着の上から刃物で切り付けられた事件のこと。現場は1時間に1回、人工的に波が出る屋内プールで、13時の波で2名、14時の波では6名が被害にあっていた(1名は何時の波か不明)。いまだ犯人は捕まっていない。
プール近くの飲食店でアルバイトをしている20代の女性は声を震わせた。
「当日私たちは何も知らされていなくて、休憩に入った時に、親や友達から“大丈夫なの?”と連絡が来てるのを見て、園内で大変なことが起きているのを知ったんです。もしその刃物を持った人が店の中に入ってきて、私たちを人質にとっていたらと考えるだけで…ゾッとします」
園内の土産物店に勤める40代の女性も顔をしかめた。
「緊急事態の場合、私たちのようなテナントスタッフは、各店舗に置いてある固定電話で連絡が来ることになっているんですが、その日は事件現場の『波のプールの波を一時止めます』という連絡のみ。あまり気にも留めなかったんですが、帰る時にパトカーやヘリがいて、そこで初めて事件を知りました。その時プールでは、まだ普通にみんな泳いでいて…」
現場のプールでは、被害が続発していたにもかかわらず、来園者に一切アナウンスせず、それどころか事態を把握していない従業員がたくさんいるまま通常営業。防犯コンサルタントの吉川祐二さんは、このずさんな危機管理に首をかしげる。
「人が多く集まる施設では、来場者がパニック状態に陥らないよう、いろいろな方法でスタッフに異変を知らせるのが通常です。BGMの音量を上げるだけでも合図になりますし、架空の名前…たとえば“山川さん”と決めて、“スタッフの山川さん至急連絡ください”といえば緊急事態の合図となったりします。
サマーランドも隠語を使うなり、なんらかの理由をつけるなりして、2回目の波出しは中止すべきでした。それがなかったというのは、普段から危機管理がないという証でしょう」
もともと、痴漢や盗難が相次いでいたという同園。しかし“隠語”はこれまで使われていなかった。この事件をきっかけに、警察から3つの防止策が申し入れられた。
「1つは来場者に対する手荷物検査、もう1つは過度の混雑防止対策。そして最後は、事件や事故が起きた時の避難誘導態勢の確立です」(警視庁広報)
なお、同園には今も警察が立ち入り、警戒態勢が敷かれている。
※女性セブン2016年9月22日号