死の間際、人はどういう行動を取るのか
人は「死」を告げられた時、どのようにして現実を受け容れ、残された時間に何をしようとするのか。やはり「家族との時間」を大切にする人が多い。昨年、夫を看取った70代の女性が振り返る。
「それまで子供たちに『忙しいだろうから、見舞いには来なくていい』と言い張っていた主人が、亡くなる3日前になって、ポツリと『やっぱり最後に会いたい。孫の顔も見たい』と漏らした。急いで家族みんなに声をかけ、子供3人と孫6人が病院に駆けつけました。最後は意識が朦朧として会話もできませんでしたが、幸せだったと思います」
会話をする力もなくなっていた男性が、今際の際に家族に声をかけられ、ガッツポーズをして逝ったケースもあるという。
遺される妻を不憫に思い、思いも寄らぬ行動を取った末期がん患者の夫がいた。そのひとり息子がこう語る。
「当時、私は語学留学のため、イギリスに暮らしていました。これまで一度も連絡をくれたことのなかった父から突然、国際電話がかかってきたんです。『オレの命は残りわずかのようだ。ひとりになってしまう母さんが心配だ。帰国を早めてやってくれないか』というんです。厳格な父でしたから、それまでお願いなんてされたことがなかったので面食らいました。正直、父の病状より、その行動のほうが衝撃でしたね」
彼は帰国を早め、母と一緒に父の最期を看取り、遺言通り、気落ちする母を支えたのだった。2000人の患者を看取ってきた長尾クリニックの長尾和宏院長は、死の間際に母を思い出す男性が多いという。
「大の大人が『お母ちゃ~ん』と叫ぶんです。これは、奥さんのことではなく、自分を生んでくれた母親のこと。『お父ちゃ~ん』は聞いたことがないですが、男性は育ててくれた母を最期の瞬間に思い出す人が多いのでしょう」
※週刊ポスト2016年9月16・23日号