患者数330万人異常、成人の85%が感染している歯周病は、虫歯と並ぶ、歯を失う2大要因で、肺炎や心疾患などの原因ともなる。が、その治療の実態は杜撰なものが少なくない。大阪で予防歯科のクリニックを運営する、歯科医の米畑有理氏は次のような体験を語る。
「他院から来た患者さんの中には、正しい歯周病検査を受けないまま治療されている方や、スケーリングを受けたばかりなのに歯石が残っていることもあります」
米畑氏は、手抜き治療を行なっている歯科医は、ごく一部であり、大半は誠実に患者と接しているはずだとも付け加えた。
ただし、その一方で歯科業界では歯周病治療について「タコヤキ治療」なる隠語がある。
これは、タコヤキをひっくり返す程度に歯をいじっただけの「やったフリ治療」を指すと同時に、診察台をずらりと並べて同時進行で患者を治療していく様が、まるでタコヤキを次々とひっくり返していくようであることを揶揄している。
歯科医の大半が個人でクリニックを経営しており、治療技術を客観的に評価される機会はほとんどない。
これまで取材してきた実感として、独りよがりな治療を行なう歯科医が実に多い。確実な歯周病治療を受けるためには、日本歯周病学会の認定医や指導医の資格は一つの目安になるだろう。
また、鶴見大学歯学部附属病院の五味一博教授は、歯周病の治療をせずインプラントに誘導する一部の歯科医について憂慮していた。
「インプラントの症例を見ると、なぜこの歯を抜いたのかと驚いてしまう場合もあります。歯周病は治せないというイメージを抱いてしまっている先生も結構多いんですよね。しかし、歯周病が少し進んでいて治せないので抜いてインプラント、という考え方は歯周病治療の専門家としては必要ないと思います」
■文・岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年9月16・23日号