中国の台頭と対照的に、アメリカのプレゼンスの低下が顕著になりつつある。かつての「超大国」の弱体化は、そのリーダーの劣化に象徴的にあらわれているとジャーナリストの落合信彦氏は指摘する。
* * *
この9月上旬、書き下ろしの著書となる『そして、アメリカは消える』を上梓する。若き頃、ペンシルヴァニア州のレディング市にあるオルブライト大学に入学してから、私は半世紀以上にわたってアメリカを見つめ続けてきた。今回の本は、私のアメリカ研究の集大成となるものだ。
そのタイトルが「アメリカは消える」であることは、アメリカを愛する私にとってはいささか残念だが、それこそがあの国の置かれている現状なのだ。
「世界の警察官」としての役割をかなぐり捨て、世界に対するプレゼンスも低下してしまった。大統領のオバマは何のリーダーシップも発揮できていない。さらに次の大統領候補たちが繰り出す主張を聞いていると、そのレベルの低さに溜息さえ出てくる。
アメリカという国はあるにはあるが、「大国」としての存在感が消えつつあるのだ。それは、檻に入れられすっかりおとなしくなったアフリカ象のように見える。その隙をついて、中国とロシアという猛獣たちが暴れ回っているのだ。
私が初めてアメリカの大地を踏んだ時、あの国は、輝いていた。船でロス・アンジェルスに着いた私は、懐に20ドルしか持ち合わせがなかった。当時、ロスから大学のあるペンシルヴァニアまで行くには、バスで75ドルかかった。汽車はその倍以上だ。だから私は、ヒッチハイクで大学へ向かうしかなかった。
見ず知らずの日本人を、みな快く乗せてくれた。大学のある街に着くと、入学担当の責任者が、カネがなくみすぼらしい格好をしていた私のためにキャデラックで迎えに来てくれた。
さらにアメリカは、授業料だけでなく食費や教科書代、寮費、医療費、小遣いなどすべてを含む、3800ドルものスカラシップ(奨学金)を出してくれた。お金がない外国人にも教育の機会を平等に与えてくれたのだ。
自由、平等、それを支える「大国」のパワー。強く、美しい国だった。ところが、今のアメリカは、あの頃とはまったく違う。同じ国とは思えないほどに落ちぶれてしまった。