12月のロシア、プーチン大統領の訪日を控え、北方領土返還交渉が水面下で進んでいる。では島々の現状はどうなのか。国後島在住のジャーナリストであるセルゲイ・キセリョフ氏が語る。
「連邦政府のプログラムでインフラ整備は格段に進みました。日本の支援に頼っていた時代は過去のものですよ」
ソ連崩壊による混乱で困窮していた北方4島に対して、日本政府が1993年に開始した支援事業では、ディーゼル発電施設やムネオハウスの名前で知られる宿泊施設「友好の家」、さらには医薬品などの人道支援物資の供与などが行なわれた。だが、そうした支援は島民の記憶から薄れつつある。
「北方領土ではロシア政府が進める『クリル(千島)社会経済発展計画』と呼ばれるインフラ整備のプログラムが2006年から始まり、港湾や空港、病院、学校などが整備されてきました。地熱発電所も建設され、今では日本政府が供与したディーゼル発電は使われていません」(同前)
プログラムの関連工事で島は潤い、夏には中央アジアや北朝鮮からの出稼ぎ労働者が島にやってくるという。工事には中国や韓国の建設会社も参入していた。
同プログラムは今年から第3期に入り、観光産業の育成が掲げられている。今年7月には韓国からのツアー客24人が国後島の自然保護区を訪ねており、今後10年間で観光客数を3倍にする計画だ。
日本が供与したムネオハウスは、日本の元島民がビザなし渡航などで訪れた時に宿泊するためのものだったが、元島民が利用しない時にはロシア人や中国人の訪問客が宿泊することもあるという。
ビジネス面でも変化がある。択捉島に本拠を持つ水産加工会社「ギドロストロイ」は、島内にある大規模な工場での水産加工だけでなく、建設業やホテル、銀行の経営まで行なっており、6000人の島民の半数はギドロストロイの従業員やその家族。地元行政府の税収の3分の2は同社からの納税で賄われている。島内には同社が設けた温泉やスポーツ施設まであり、択捉島は企業城下町と化している。
返還が実現すれば、経済的に潤った島を、今後どう維持していくのかが課題になる。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号