自民党のリベラル派として知られた太田誠一氏
所信表明演説中の首相に総立ちで拍手を送る国会の光景は、政治が変わってしまったことを改めて実感させた。政界を引退したOBは、この現状について何を思うか──。人権擁護法案を推進するなど、自民党のリベラル派として知られた太田誠一氏(70)が、安倍政権の本当の問題点を指摘する。
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それぞれの内閣で一番大切にしなくてはならないのは、その発足時に示す政策です。そして、そのときに宣言したことが、その内閣ではずっと付いて回るのです。
安倍内閣で言えばアベノミクスということになるわけですが、国民の反応はどうでしょうか。率直に言って、国民はアベノミクスが何のことだか、ほとんど分かっていないのではないでしょうか。
その理由は、経済政策のメカニズムが難しいからではありません。国民がピンとこないのは、本当に安倍首相が目指している政策が、アベノミクスだと思っていないからです。
安倍さんがやろうとしているのは憲法改正だと、皆がそう思っている。一般の国民だけでなく、多くの国会議員も、安倍さんの本心は憲法改正にあると思っています。そういう部分こそが、安倍政権の問題なのではないか。
かつて小泉首相は、郵政民営化について、「郵政民営化が実現されれば、俺は殺されてもいい」と述べた。小泉首相が郵政民営化に懸けたような覚悟を、安倍首相は国民に示していない。
憲法改正に関しては、どんどん改正反対のパーセンテージが高まっている。安倍政権が発足したときは、今よりも憲法改正への期待感が高かったと思う。マスコミは国民の理解が深まったなんて言っているけれど、そうではなく安倍首相の曖昧な姿勢が原因なのだと思います。
国民のほとんどは、安倍さんは憲法改正をすると思っているが、当の安倍首相は憲法改正を口にしない。それを見て国民は、「やる気がないのではないか」と感じ始めているのでしょう。また、「どうせ、憲法改正などできないだろう」とも思うようにもなっているはずです。
世論調査というのは、国民の明確な意識というよりも、雰囲気に左右される傾向が強い。だから、安倍さんは憲法改正できないだろうと感じると、世論調査で憲法改正に「反対」を選んでしまうのです。
その意味で、安倍首相は憲法改正の意思を明確に示すべきです。
●おおた・せいいち/1945年生まれ。1980年初当選。総務庁長官や農水大臣を歴任。自民党宏池会会長代行も務めた。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号