ソウル大学大学院で社会学を専攻したユン・ダイン氏(27歳)の修士論文が韓国で話題になった。その論文によれば、インタビューに応じた22人の在日韓国人留学生のうち20人が「私は韓国人ではない」「私は在日」という意識を留学中に強化していることがわかったからだ。在日韓国人ジャーナリストのコナー・カン氏が、論文を執筆したユン・ダイン氏になぜそのような意識を持つようになるのかを聞いた。
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在日韓国人が母国で対峙するのは、心無い言葉や態度ばかりではない。前出・ユン氏(27)が語る。
「『韓国人か日本人か』の二者択一を迫られるような場面があります。ある女性は、卒業の要件として『大学・国語(韓国語)』という授業の履修を課されました。しかしその授業は、本来韓国語のネイティブ向けの必修課目。彼女は日本で育ったため、韓国語をあまり喋れなかった。でも国籍が韓国だから、韓国人同様に扱われた。当然、彼女は履修に苦労します。このような状況は、在日コリアンにとって非常にストレスがかかるようです」(ユン氏)
そうした経験を通して、在日の学生は自らのアイデンティティを“再発見”することになるという。
「在日コリアンとしてのエスニックアイデンティティが、否定的なものから肯定的なものに変わったという意見が多くありました。韓国に来たこと自体を後悔している人はほとんどおらず、みな貴重な経験だったと話しています」(ユン氏)
論文が受賞した時、ユン氏は授賞式関係者からこんな質問をされたという。
「『毎年、在外同胞財団が母国修学を運営する資金を捻出しているけれども、この論文によるとあまり効果がない。財団の目標と異なるので、プログラムを無くしたほうが良いのか』と問いかけてきました。自分が書いた論文で、在日コリアンに提供された機会が無くなるのは本意ではありません。
韓国はまだ外国人や多様性に慣れていない。最近は多文化共生社会を達成しようと、政府や自治体が様々な施策を打ち出しています。それでも、マイノリティである在日コリアンは韓国の中の死角地帯にいて、自分たちの権利のために戦っている状態です。
在日同胞の学者・徐京植(ソキョンシク)氏は『他者が相違を認めながら共に生きる社会が実現すれば、日本は在日だけでなく、日本人にとっても住みよい社会になるだろう』といい、これは韓国社会にも適用できるとしています。私の論文が、韓国で境界人として生活し誤解や偏見に晒されている在日同胞と、韓国人の望ましい共生に貢献できることを願っています」(ユン氏)
※SAPIO2016年11月号