「本当の影の総理」として大臣、自民党幹部まで顔色をうかがう、今井尚哉・総理首席秘書官。今井家と安倍家とは縁が深い。戦前の商工省時代に同氏の伯父である善衛氏の上司だったのが安倍晋三首相の祖父・岸信介元首相。しかも、1982年に今井氏自身が通産省(現・経産省)に入省した時の通産大臣は安倍氏の父・晋太郎氏である。血脈の上でも今井家は安倍昭恵夫人と縁戚だ。今井家はいまや、天皇の「生前退位」問題でも議論の鍵を握る。
安倍首相は生前退位問題を議論する有識者会議を設置し、11月から学者、文化人などへのヒアリングを開始。その会議の座長に起用されたのが、今井氏の叔父の今井敬・元経団連会長だ。今井氏と親交があるジャーナリストが語る。
「座長はどんな結論を出すにせよ、各方面から批判を浴びることは避けられない。財界人は火中の栗を拾いたくないからみんな尻込みした。そこで安倍総理と今井秘書官は最終的に“身内”の敬さんに頼んだわけです」
ロシアとの北方領土交渉も、今井氏が重要な役割を演じている。今井氏はエネルギー庁時代、サハリン油田開発で現地に何度も足を運んでロシア側と丁々発止の交渉をしてきた経験を持つ。ロシアとの領土交渉の取引材料である経済協力の“仕掛け人”だ。ベテラン政治部記者が語る。
「今井さんは秘書官になってから“俺は中東とロシアでエネルギー外交をやってきた。外交で安倍総理の名を歴史に残したい”と語っていた。その頃から今井さんの頭には北方領土があり、経産省がロシアへの経済協力を仕切って4年越しでレールを敷いてきた。
外務省が慎重論を唱えても、今井さんは“プーチンは最後の親日派なんだ。今やらないと領土問題は動かない”と主導権を取ってどんどん進めてきた。総理の信頼の厚い今井さんが、前のめりになるのを外務省は止めることができない」
今井氏に権力と情報の集中が進む状況に、永田町からは「黒子が出しゃばると国が傾く」(自民党幹部)といった嫉妬混じりの批判も上がる。過去にも「スーパー官僚」と呼ばれる実力者が政権で圧倒的な存在感を見せた際には、決まって政界からの批判や妨害、あるいはスキャンダル暴露といった“反撃”が起きた。
国会で衆参3分の2を握り、霞が関も中央銀行も財界もなびく“史上最強の安倍内閣”にとって、今井氏の存在は最強のエンジンであると同時に、最大の不安要因にもなり得る。
※週刊ポスト2016年11月18日号