日米間の新たな懸案となっているアメリカの次期大統領、ドナルド・トランプ氏の在日米軍経費の全額負担発言やTPP(環太平洋経済連携協定)交渉脱退方針について、議論するいいチャンスだと前向きに捉える意見がある。長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹が指摘する。
「在日米軍の経費は日本が75%負担している。全額負担であれば1500億円ほど増える計算になる。一方、米国が日本から軍隊を引き揚げ、かわりに自衛隊が空母艦隊や戦略爆撃機などを持って中国の脅威に備えようとすれば15兆円とか、ケタ違いの防衛費がかかる。どちらがいいのか。国民が日本の安全保障のあり方を真剣に考える好機と考えるべきです」
TPPについてはこうだ。
「そもそもTPP交渉を始めたのはチリやニュージーランドで、日本も米国も後から加わった。米国が脱退するからといってご破算にするのではなく、米国抜きで同じような協定を結び直すという考え方だって選択肢になる。その上で米国に“こんなにメリットのある協定だから加わった方がいいのでは”と改めて呼び掛ける方法もある。とにかくゼロベースで何がいいか考えられる状況が生まれたわけです」(同前)
日米安保やTPPの見直しでは日米関係の「成熟化」をもたらすことはあっても、悪化にはつながらないという見方である。
日本と対照的なのが韓国である。韓国は来年大統領選を迎え、潘基文(パンギムン)・国連事務総長が次期大統領の最有力候補と見られている。
「その潘氏がトランプ氏の不興を買っているのです」(在韓ジャーナリスト・藤原修平氏)
潘氏は今年5月、米コロンビア大学での講演で、
「私たちは、人種差別や憎悪の発言に激しく憤る。特に、発言が国民を結束させなければならない義務がある政治家や指導者になろうとする人の口から出ればなおさらだ」
とトランプ氏をあてこすり、「気候変動問題を否定する政治家に投票してはならない」と学生に呼びかけた。この発言が「中立」であるはずの国連事務総長がヒラリーに肩入れしたと共和党陣営から激しい批判を浴び、トランプ氏も国連批判のボルテージを上げた経緯がある。
「韓国はこの10数年、『環境先進国』のポジションを目指し、潘氏も国連事務総長の立場から環境問題に取り組んできた。一方のトランプ氏は、そうした環境問題への国際的な取り組みについてはNOを鮮明にしてきた。この溝は大きい」(前出・藤原氏)
潘氏が韓国の次期大統領になれば、米韓関係の重い足枷となりかねない。
トランプ氏の就任は来年1月20日。世界はその日から、従前の予想とは違ったかたちで大きく変わるかも知れない。
※週刊ポスト2016年12月2日号