12月上旬、バイオベンチャー企業のアンジェスMGと大阪大学の森下竜一教授らは、高血圧治療のワクチンの臨床試験(治験)を2017年からオーストラリアで開始すると発表した。そのワクチンは、毎日服用しなければならない降圧剤と違い、1回注射するだけで血圧を下げる効果が数年間にわたって持続するという。
ほかにもワクチンのメリットは数多くある。
「降圧剤は持続期間が短いため、朝や夜のみの血圧上昇といった“隠れ高血圧”への対応が難しいが、効果がずっと続くワクチンなら、降圧剤でコントロールが難しい時間帯もカバーできます。認知症患者など、日々の服用が困難な患者にも有効です。また、1回のワクチン投与で数年間の効果が期待できるため、降圧剤にかかる医療費の削減も期待できます」(森下教授)
“夢の特効薬”と期待がかかる一方で、ワクチンには副作用のリスクという課題もある。
「体内の免疫力が高まり過ぎて、自分で自分を攻撃することで、アレルギーなどの『自己免疫疾患』になるリスクがある。ネズミの実験では自己免疫疾患の危険は回避できたが、今後も注意深い検証が必要です」(同前)
また、ワクチンはすべての高血圧に効く「万能薬」とは限らない。降圧剤には、主に血管拡張作用のあるタイプと、血液量の増加を抑制するタイプの2種類がある。
「このワクチンは、血管拡張作用のある『ARB』、『ACE阻害剤』、『カルシウム拮抗薬』、血液量の増加を抑制する『利尿剤』、『ベータ遮断薬』など、どのタイプの降圧剤を服用する患者にも効果が期待できます。ただ、複数の種類の降圧剤を服用する患者はこのワクチンだけで全ての薬をやめられるとは限りません」(同前)
課題もあるが、メリットも大きい高血圧ワクチン。気になる実用化だが、前述の通り2017年に治験が始まる。森下教授と開発を進めるアンジェスMGの山田英社長はこう話す。
「最初の段階の臨床試験を来年半ばから約2年かけて実施します。その後、試験で良い結果を得られれば、大手製薬企業と提携した上でより大規模な試験を実施します。それを経て、早ければ約5年以内に国内外で実用化される可能性があります」
1日も早い実用化が待たれる。
※週刊ポスト2016年12月23日号