性格と長寿の相関関係をめぐっては多くの研究成果が報告されている。
◆皮肉屋はボケやすい
イースト・フィンランド大学のエリーサ・ニューボーネン博士らのチームは2014年に「皮肉屋」と「認知症」に関する論文を発表した。
それによると、彼女らはまず高齢者の男女に「誰でも他人を出し抜くためにウソをつくと思うか」「誰も信用しないのが最も安全だと思うか」という質問をし、「そう思う」と答えた人を皮肉屋の傾向があると分類した。その後、平均8.4年間の追跡調査を行なうなかで、認知症検査を受けた622人を分析したところ、「皮肉屋の傾向がある人」は「ない人」に比べて3倍も認知症を発症しやすいという結果が出たという。
◆頑固な人は認知症になりやすい
認知症患者の性格の特徴については日本でも研究がある。先鞭をつけたのは東京都老人総合研究所(当時)の柄澤昭秀・博士だ。
柄澤氏が1990年に発表した論文では、認知症の高齢者165人と健康な高齢者376人の40~50歳当時の性格を近親者から聞き取り、認知症の発症前の特徴的な性格として「わがまま」「頑固」「杓子定規」などが挙げられることを明らかにした。
とはいえ、加齢とともに頑固になるのは一般的にも見られる傾向だ。白澤抗加齢医学研究所所長の白澤卓二氏が解説する。
「人は45歳を過ぎると性ホルモンの分泌が減っていきます。これに伴い、人間の性格を決めている前頭葉が萎縮し始める。それで若いころの柔軟な感情が維持できなくなり、多くの人が頑固になってしまう。前頭葉の萎縮が大きくなると若年性認知症の1つである前頭葉型認知症になります」
つまり、歳とともに頑固になる傾向の強い人は、認知症リスクが高い可能性があるという見方だ。精神科医で岡田クリニック院長の岡田尊司氏は、この高齢化に伴う「性格の変化」に立ち向かうには、「愛着」がキーワードになるという。
「『愛着』を司るオキシトシンというホルモンが働かなくなると、性格が尖っていき、周囲から疎んじられることでさらに孤立する。オキシトシンが安定して働くようになると対人的に丸くなります。歳をとればとるほど、人との関係において愛着を持てるかどうかが重要になってくるのです」
◆嫉妬深い妻はボケやすい
加齢に伴う変化には、当然ながら男女の違いもある。スウェーデンのイエテボリ大学のレナ・ヨハンセン博士らのグループは平均年齢46歳の女性800人を38年追跡調査し、性格とアルツハイマー病との因果関係を調べた。
2015年の発表論文によると、女性が受けた性格テストで「心配性」「嫉妬深い」「すぐ悩む」をスコア化したが、点数が「高かった女性」は「低かった女性」に比べアルツハイマー病の発症率が2倍も高かったという。
妻に対して「あまり悩むとボケるよ」と呟くのは勇気がいるが、逆鱗に触れた際の“最終兵器”として覚えておいてもよさそうだ。
※週刊ポスト2017年1月13・20日号