のんびり屋で絵を描くのが大好きな女性・すずが、顔も知らない青年に嫁ぐため、広島から呉へやって来る。昭和19年、厳しい戦時下を前向きに生きる人々の姿を描いたアニメ映画『この世界の片隅に』が中高年を中心に大ヒット中だ。
11月12日に全国の映画館63館で公開以来、観客動員数は伸び続け、年明けには150館以上で公開。1月以降もロングラン上映する。
「『この世界の片隅に』は非常にすばらしい作品ですが、公開が2015年だったらこれほどのヒットはしていなかったと思います」
こう話すのは、アニメに詳しい映画評論家の増當竜也さんだ。
「当時の生活や戦争の様子を細かい部分までよく調べて描いていますし、すず役にのんさんを起用したこともよかった。ただ、テーマは万人受けするものではない。
それがここまでのヒットとなったのは、その前に『君の名は。』のヒットがあったから。一方、同様に2016年大ヒットした実写映画『シン・ゴジラ』も、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督の作品で、どうせアニメでしょ、とこれまでアニメを切り捨ててきた人たちも、いよいよその存在を無視できなくなってきました」
そう、アニメを見ているのはオタクや子供、というイメージはもう古いのだ。ここ数年、アニメはより多くの人が楽しむエンターテインメントになっている。2016年8月から公開中の『君の名は。』は興行収入200億円を突破。続いて公開された映画『聲の形』も22億円超えするなど、アニメ映画のヒットはとどまるところを知らない。なぜ今、秀逸なアニメ作品が日本映画にそろってきたのか。アニメ評論家の藤津亮太さんはこう語る。
「もともと日本のアニメはレベルが高く、ファンはそれを知っていましたが、多くの人がそのことを知らなかった。でも2016年に『君の名は。』が当たったことで注目が集まり、アニメの多様さ、面白さが発見されたんだと思います。
たとえば『君の名は。』は映像美が有名ですが、映画『聲の形』、『この世界の片隅に』にもそれぞれ違う映像美や魅力がある。『君の名は。』を見て、アニメってすごいなと思った人たちが他の作品も見に行って、やっぱりその気持ちを裏切らない作品だった、ということは大きい」
そして2017年も『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』、『ひるね姫~知らないワタシの物語~』、『メアリと魔女の花』、『虐殺器官』など期待作が続々公開予定だ。
「テーマや題材で選べばそれほどハズレはないはず。新たな発見があると思います」(藤津さん)
アニメだから描ける世界やストーリー、日本人のセンスと職人気質で作られた秀作を知らないままではもったいない。2017年、今こそアニメ映画の世界に足を踏み入れてみてはいかが?
※女性セブン2017年1月19日号