ライフ

神道学者・高森明勅が選ぶ「天皇を考える本」4冊

 天皇陛下の「おことば」の意味と皇位継承を考える4冊を、神道学者・高森明勅氏が選んだ。

 * * *
 平成28年8月8日、全国民に向けて「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」がビデオメッセージという異例の形式で公表された。その核心はご譲位を望んでおられるという一点だった。

 そこでは、憲法に規定された「国民統合の象徴」としての務めが高齢による衰えのために十分行えなくなったら、その任に耐え得る後継者に皇位を譲る仕組みを導入すべきだという考え方が示された。背景には、ただ象徴「である」だけでなく、その「役割を果たす」ことが求められているとの能動的、主体的な天皇像があった。まさに陛下ご自身がこれまでの30年近い平成の歳月、「全身全霊」で実践してこられた天皇像に他ならない。

 このメッセージは強い衝撃を与え、人々が改めてわが国における天皇・皇室の存在意義について思いをめぐらすきっかけになった。近く次の皇位継承が行われることが予想される今、このテーマに関わる基本図書を紹介する(他に入手困難ながら資料集として帝国学士院編『帝室制度史』3・4巻がある)。

「天皇が同時に2人いた時代」
『神皇正統記』/北畠親房著/1339年成立/岩波文庫/岩佐正校注
 
 皇室の歴史の中でもとりわけ異例かつ変則的だったのが南北朝時代。何しろ天皇が同時に2人いるのが常態化していた。そうした異常な状況下で、神話に遡る皇位継承の次第を辿り、南朝の正統性を強く主張するのが本書。「三種の神器」の受け継ぎを重視する一方、後醍醐天皇の政治を率直に批判した。ちなみに現在の皇室は北朝の系統だ。

「現代とは異なる天皇観があった」
『中世の天皇観』/河内祥輔著/2003年/山川出版社

 歴史上の「天皇観」の変遷を皇位と皇統という2つの視点から浮かび上がらせる。現代の「皇位」に重点を置く天皇観は、帝国憲法の「万世一系」という観念から更に江戸期の儒学者の考え方にまで遡る。だが、それ以前は主に「皇統」に拠る別の天皇観が存在したことを『神皇正統記』等から明らかにする。斬新で刺激的な問題提起だ。

「『おことば』を受けて書かれた譲位論」
『天皇「生前退位」の真実』/高森明勅著/2016年/幻冬舎新書

 天皇陛下が望まれ、圧倒的多数の国民が賛成した生前退位について、一部に驚くほど誤った議論が唱えられている。恒久的な譲位制の導入は、前近代での「天皇の伝統的在り方」の回復。同時に未来に向けた「国民と共にある」天皇像が完成に近づくことも意味する。それを、大きな歴史的展望と天皇の実際のご活動の全体像から明らかにした。

【PROFILE】1957年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學博士課程単位取得(神道学、日本古代史専攻)。『歴史で読み解く女性天皇』(ベスト新書)、『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舍新書)など著書多数。

※SAPIO2017年2月号

関連記事

トピックス

(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン