NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の舞台として沸く静岡県浜松市にある問題が持ち上がっている。土産品などに「直虎」の名が使えないというのだ。
理由は昨年4月に長野県須坂市の醸造業者が「直虎」を商標登録したことにあった。なぜ、長野県の醸造業者が? 実は「直虎」は「女」だけじゃなく、「男」もいたからである。
それは江戸末期の大名で、信濃須坂藩(現・長野県須坂市)の13代藩主「堀直虎」のこと。25歳で藩主となった堀直虎は、大胆な藩政改革が認められ、幕府の要職に抜擢される。その後、15代将軍・徳川慶喜に幕府の行く末について意見を述べたが、受け入れられず江戸城中で腹を切った。須坂では「将軍を叱った男」として知られる。
こちらも今年が没後150年ということもあり、関連イベントで須坂は大いに盛り上がっている。その一環として醸造業者と堀直虎没後150年祭実行委員会が連携して商標を取得したという。
この状況に困った浜松市と同市の商工会議所は特許庁に異議申し立てを行なった。浜松市広報担当者の話。
「歴史上有名な『家康』や『秀吉』などの名前は商標登録できません。『直虎』もNHKが一昨年に『おんな城主 直虎』の放送を発表して以降、一般に知られる存在となった。だからその後に『直虎』の商標を認めた特許庁に異議を唱えたのです。須坂藩に堀直虎という人がいたことは承知していますが、それなら『堀直虎』で登録すればいい話でしょう」
これに対して一歩も引かないのは、堀直虎没後150年祭実行委員会の田中宏和委員長だ。
「須坂市民にとって『直虎』といえば堀直虎です。没後70周年祭も100周年祭りもやりました。今年は150周年祭。数年前から準備をしている。『直虎』の商標登録はNHKの大河ドラマとは全く関係のないことです。共存共栄したいが、商標登録の取り下げはできかねます」
両者相譲らずの様相。『直虎』の登録がこのまま認められるのか、はたまた浜松市の異議申し立てが認められるのかは特許庁の判断に委ねられた。弁理士の岡田宏之氏が解説する。
「浜松市が主張するように、『家康』や『秀吉』のような有名人なら基本的に商標登録はできません。しかし特許庁は一度『直虎』の商標登録を認めている。それは『家康』や『秀吉』ほど一般的とは判断しなかったためです。今回のケースでは決定を覆して浜松市の主張が認められるのは難しいのではないか」
果たして軍配はどちらに上がるのか。
※週刊ポスト2017年2月3日号