不正会計問題からの再建途上にある東芝に、さらなる巨額損失がのしかかり、いよいよ同社は解体の危機を迎えている。
現在、営業利益の8割を稼ぎ出す“虎の子”である半導体事業の分社化、東芝テックなどの上場子会社の売却といった策が検討されているが、すでに2016年3月期の赤字決算を受けて医療機器子会社をキヤノンに、白物家電子会社も中国マイディアグループ(美的集団)に売却済み。
さらなる切り売りとなれば、まさに「解体」である。
一方、東芝に残った部門の中でも“安泰”と目されるのが原子力部門だという。2015年12月に早期退職募集に応じ、転籍した50代の元部長クラスがいう。
「かつての同期で最近集まった時も、原子力部門の社員たちは、何も心配していない様子でした。リストラに怯える他部門の人間とは対照的でした」
7000億円ともいわれる巨額損失が表面化し、東芝解体の“震源”ともいえるセクションが安泰なのはなぜか。ジャーナリスト・伊藤博敏氏が解説する。
「東芝は、2006年に米原子力企業のウエスチングハウス(WH)を約6000億円の高値で買収しています。
2011年の福島第一原発事故で世界の原発市場の様相が一変した後も事業は好調と言い募ったり、今回の新たな巨額損失を発生させたり、会社の屋台骨を揺るがせる部門なのに温存されるのは、原子力事業がいわば国策だからです。
当然、中国資本に売ったりすれば日米の外交問題にもなるから、国は東芝にWHを手放させるわけにもいかないのです」
結果、半導体や医療機器といった利益を生む事業が先に切り売りされたのだ。WH買収時の社長、西田厚聡氏を直撃した。
──東芝が解体に向かう現状について聞きたい。
「解体とはどういう意味ですか。分社化や売却がなされるかは僕にはよくわからないですよ。僕はもう1年以上前に東芝を退職しているから、東芝とは何も関係がないんです。新聞くらいしかニュースソースがありません」
──社長時代に買収したWHの巨額損失が今回の騒動の発端になっている。
「買収した際には、その時点での最適な経営判断をしたつもりです。原発事業は非常に長いタイムスパンで考えないといけない。結果的に20年経ったらあの判断は『間違っていた』とか良くも悪くもないとか、判断されるんじゃないかな。そういう“見る目”が広げられるかどうかでしょう」
前出の50代元部長クラスは寂しそうにこういう。
「結局、正しかったのは私を含め、昨年3月の赤字決算を受け、退職金を受け取り早期退職した社員ですよ」
かつての経団連会長企業としての栄光を取り戻す日は来るのか。
※週刊ポスト2017年2月10日号