ドナルド・トランプ大統領は、選挙後の初会見で「過去最大の雇用を生み出す」と冒頭で述べ、日本を名指しで批判した。Twitterでは、トヨタのメキシコ工場新設を恫喝めいた口調で批判している。経営コンサルタントの大前研一氏が、雇用創出の面において、トランプ大統領の発言がいかに的外れであるかについて解説する。
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フォードはトランプ氏に「恥知らず」と批判されたメキシコの新工場建設計画を撤回し、米ミシガン州の既存工場に7億ドルを投じて700人ほどの新たな雇用を創出すると発表した。フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)もミシガン州とオハイオ州の工場の設備増強に10億ドルを投じ、約2000人を追加雇用すると発表した。しかし、実はいずれも直近に削減した人数を戻したにすぎない。
これまでアメリカのGM(ゼネラルモーターズ)、フォード、FCAは、リストラに次ぐリストラでひたすら雇用を削減してきた。一方、すべての製造業の中で、この30年間に最もアメリカ国内で雇用を創出したのはトヨタである。豊田章男社長は「アメリカで13万6000人を雇用している」と述べ、過去60年間で220億ドルを投資した実績を強調したが、これもまた「真実の姿」ではない。
というのは、トヨタは傘下の部品メーカーもごっそりアメリカに連れて行ったからである。それも含めればトヨタがアメリカで創出した雇用は13万6000人どころの話ではないのである。しかも、その高品質な部品をアメリカの自動車メーカーに対しても供給することを認めたから、ビッグスリー(GM、フォード・モーター、クライスラーの米国3大自動車メーカー)が甦ったのである。
逆に、メキシコ生産で最も出遅れたのがトヨタである。トランプ大統領はメキシコからの移民を排除すると言うが、それなら自動車メーカーなどにはメキシコに工場を新設させたほうがよい。そうすれば、メキシコ人は自国内で働くことができるからだ。実際、私は昨年、グアナファト州へ視察に行ったが、好景気に沸いていてアメリカに行きたいという人は皆無だった。
※週刊ポスト2017年2月17日号