激闘となった春場所終盤戦を勝ち抜いた代償として、横綱・稀勢の里は春巡業の休場に追い込まれた。主役なき巡業の現場を取材すると、意外なほどの盛り上がりを見せていた──。
4月5日朝8時、宝塚市立スポーツセンター総合体育館では軽快な太鼓の音が響き始めた。大相撲春巡業・宝塚場所の開場を告げる「寄せ太鼓」である。かつては早朝に鳴り響いていたが、騒音規制の条例ができてこの時間になったという。
待ちかねていた観客が次々に場内へ飲み込まれていく。タマリS席1万4500円から、1階椅子S席1万円、2階椅子C席3500円と各種ある入場券は、昨年11月に売り出され、わずか2週間で完売。3200席は「満員御礼」となった。
主催する大相撲宝塚場所実行委員会の担当者は盛況に胸を撫で下ろしたという。
「春場所は上位陣に負傷が相次ぎ、巡業は白鵬、稀勢の里の2横綱、豪栄道、照ノ富士の2大関が休場になってしまいました。関西のお客さんが相手ですから“金返せ!”といわれるのを覚悟しましたが、むしろ空席なしの大盛況ですわ」
館内に特設された土俵上では、まず幕下以下によるぶつかり稽古が始まる。巡業は「稽古場所」とも呼ばれ、普段稽古をしない一門外の相手とぶつかれる貴重な鍛錬の場でもある。
ただし、真剣な土俵上をよそに、会場周辺ではウロウロしている幕内上位の人気力士が握手攻めにあうなど、あちこちで人だかりができる。