こと医療において海外の事情など知る機会はないし、その必要性も感じることはない。だが、いつも服用している薬が、海外では「処方されていない」、あるいは「マイナー」な薬だと聞けばどうだろう。その背景を紐解けば、日本のガラパゴス的な薬事情が見えてくる。
頭痛や歯痛、リウマチなど様々な症状に処方される鎮痛剤ロキソニン(非ステロイド性抗炎症薬)。年間約500億円を売り上げる人気の痛み止めで、日本での知名度は抜群だが、実は海外旅行中に痛みを覚えて病院や薬局に駆け込んでも手に入らない。
ロキソニンが承認・販売されているのは日本以外では中国やタイなどアジアの一部の国のみで、欧米では処方されていないのだ。医療ジャーナリストの田辺功氏がその理由をこう話す。
「鎮痛効果に疑いの余地はありませんし、実際に多くの患者を痛みから救っている薬であることは事実です。その一方で、ロキソニンには“胃を荒らす”という副作用があり、重症化すると腸閉塞に至るケースも報告されています。腹痛の患者にロキソニンを出して症状が逆に悪化したという笑えない事例も存在します。欧米では、ロキソニンより即効性は低いものの、消化器へのダメージなどが報告されていないセレコックスという鎮痛剤の処方が一般的です」
欧米では、普段から鎮痛剤を服用する人が多く、より副作用に敏感になっているためだという。ロキソニンの製造・販売元の第一三共によれば、現在は添付資料に、前述のような「副作用」を明記し、注意喚起を行なっているという。