視聴者が見たことがない番組を次々と生み出すテレビ東京。そんなテレ東社員は日々、何を考えて過ごしているのか。
テレ東社員で、自らのAD生活を綴った漫画『オンエアできない!~女ADまふねこ(23才)、テレビ番組つくってます~』(朝日新聞出版)を刊行した真船佳奈さんは、こう語る。
「AD時代から、日常で“変だな”と思うことを片っ端から漫画にしてメモしています。いつかネタになると思って書き溜めていたら、『ゴッドタン』の佐久間宣行プロデューサーの目に留まり、漫画を出版するきっかけになりました」(真船さん)
同じく四六時中メモを取るというのが『池の水ぜんぶ抜く』『モヤモヤさまぁ~ず2』を手掛けるプロデューサー・伊藤隆行さん。伊藤さんの企画ノートを見せてもらうと、1ページ目に「あなたは何ヌーボー?」の文字が。
「この間、ワインのボジョレヌーボーの解禁日だったでしょう。バーで飲んでいたら、マスターが『あなた何ヌーボー?』とふざけて言っていた。バカだなあと思いながらも、いつか使えるかもと思って、ついついメモしてしまいました(苦笑)」(伊藤さん)
『家、ついて行ってイイですか?』のプロデューサーである高橋弘樹さんは、普段からわからない地名や単語があれば、すぐに検索する。
「妻と歩いていても街のあちこちを見て、わからないものがあればすぐウィキペディアで調べるので、『あなたはビョウキだ』と嫌がられます。
最近、名古屋に出張した時も車中でずっとナビを見て、気になる地名やお寺の名前が出たらすぐに検索していた。すると知らない街や寺にも歴史があり、ドラマがあることがわかる。これぞ、街歩きの醍醐味だし、番組作りにも生かせると思っています」(高橋さん)
今回、取材したテレ東社員たちが口を揃えるのは、社内に存在する“変”への思い入れの強さだ。
「実際に会社には変な人ばかりです。肩に偽物の鳥が乗った服で現れる人や、ずっと大音量で口笛を吹いている人、入社から20年間ずっと同じ服で絶対にビールと野菜しか食べない人…。
テレ東は“変”を楽しむ会社であり、バカなことを大真面目にやる会社なんです」(真船さん)
これこそが面白い番組を作る源となっているのだろう。
もう1つ、今回の取材でわかったのは、テレ東社員の「謙虚」な姿勢だ。取材に応じてくれた、すべての人が、「好調? ホントにそうかな?」と自分たちの成果を自慢せず、常に控えめな態度に終始した。そこには“傲慢な業界人”という面はひとかけらも見えなかった。
伊藤さんが真っすぐな目をして訴える。
「『ぼくらは所詮テレビ東京ですから』ということを常に強く意識しています。テレビ欄の文言でも『ですます調』で腰を低くして、決してあおらない。 これから先も常に視聴者の半歩前を行き、クスッと笑えて飽きさせない番組を提供したいですね」
テレビがつまらなくなった、若者のテレビ離れが止まらない、と呼ばれるようになって久しいが、決して人々がテレビを全く見なくなったわけではない──
今回紹介したテレ東の番組のように、面白い番組は確実に視聴者の心に届いているのだ。民放各局は「振り向けばテレ東」なんて言ってないで、テレ東の姿勢を見習って、まだ誰も見たことのない番組を作ってほしい。
※女性セブン2017年12月14日号