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【著者に訊け】出会い系サイトで会った人に本を勧めた記録

実録小説を上梓した花田菜々子さん(撮影/浅野剛)

【著者に訊け】花田菜々子さん/『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』/河出書房新社/1404円

【本の内容】
〈「変わった本屋の店長をしています。1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」〉。夫と別居中の花田さんが、出会い系サイトのプロフィール欄にこう書き込んだところから、1年あまりにわたる旅が始まった。体目的の人もいるが、今も続く友達になった人もいる。初めて会う知らない人と何を話すか、どんなふうに本の魅力を伝えるか、どんな本をすすめるか。花田さんが真っ向勝負を挑んだスリリングな1年間のほぼ実録小説。

 長いタイトルそのままに、ネットのウェブサービスで、初対面の人に次々、本をすすめた「修行」のような経験を本にした。武器は、ヴィレッジヴァンガードの店長として蓄積してきた膨大な本の知識。70人に挑んだ「30分一本勝負」のヒリヒリする記録である。

「ウェブマガジンの連載だったんですけど、初めは本になるなんて思ってもいなくて、ちょっと面白いエピソードを紹介、知り合いが増えて世界が広がったぐらいのことを書くつもりでした。書籍化にあたって大幅に加筆、書きたくなかった部分を書かないではすまない感じになってしまって」

──書きたくなかった部分というのは?

「自分自身について、たとえば『セクシー書店員』という痛いキャラを使っていたことや、尊敬する書店主さんへの憧れていた気持ちもご本人が読むかもしれないと思うと書きたくなかったですね。でも、『書くのやだな』と思うことも、書いてみると書いてよかったと思える、そんな経験を何度か繰り返し、とことん書いた方が面白く読んでもらえると覚悟が決まりました」

 結果、エッセイであり、ノンフィクションであり、私小説でもあるような、抜群に面白い読み物に仕上がった。何の接点もない相手との束の間の出会い。異性でも同性でも、短いやりとりの中で一人ひとり個性が立ち上がり、新しい扉が開かれていく。嫌な思いをしたこともないではないが、思いがけない発見も多く、花田さん自身をどんどん変えていく。

「始めた頃は、ヴィレッジヴァンガードでぐずぐずしていて、書店員以外の仕事も探してみようかという気持ちだったのが、『修行』を通してやっぱり自分は本にかかわる仕事がしていきたい、ってはっきりしたことがいちばん大きいですね。単に本を並べるだけじゃなく、人とお喋りしてすすめるのが、大好きなんだと気づきました」

 現在は、3月に開店した女性のための新しい本屋、「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」店長として働いている。

「趣味でも仕事のことでもシリアスな悩みでも、ふらっと来ていただいて、ひと回りすれば何かに出会える店にしたいです」

■取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2018年6月28日号

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