あなたにとって「誇り」とは? ノンフィクション作家の稲泉連氏が50人のビジネスマンに取材してまとめたレポート「誇り-だから私は今日も働く」で、森永乳業の冷菓事業部に勤める佐々木正春氏(48)のことを紹介している。
佐々木氏は、「自らの働く姿勢」を次のようなものとして持っていると語った一人だ。「サラリーマンは自分の好きな会社に入れるとは限らないし、働きたい部署で働けるわけでもない。求められるのは、与えられた場所で力を最大限発揮しようとする姿勢だと思ってきました」
80年入社の佐々木氏は、一貫して森永乳業のアイスクリーム部門で働いてきた。現在は同社の冷菓事業部のマーケティンググループ長として、主力商品である「pino」や「PARM」のマーケティングなどを統括する立場にいる。
「誇り」について彼が感じているのは、「目の前の仕事」の結果である売り上げや営業成績が、必ずしも働く上でのそれには直結していないことだ。目標とする成績が達成されているのを確認して胸に生じるのは、仕事への誇りというよりもむしろ一つの満足感であるからだ。
「誇りというのは、数字には表れないところにあるものだと思います。私であれば、やはり実際に消費者の方が商品を買っている姿を目にする時に感じるものですね」
彼も休日になるとひとりで自宅を出て、近所のスーパーに向かうことがある。そしてアイスクリーム売場へ行くと、少し離れたところからしばらく様子を見る。
近年、少子化の影響で日本におけるアイスクリームの売り上げは減少傾向にあり、40代以降の年齢層にいかに商品を届けるかが課題となっている。彼のチームはその課題を常に意識しているが、会社でいくら消費者動向の調査結果や「数字」を見つめていても、それだけではどこか実感が伴わない思いが残るのも確かだ。
「だから実際に買い物かごに商品を入れている姿や、食べている姿を見かけると、とてもほっとした気持ちになるんです」(佐々木氏)
誇らしさは、その後にやってくる。製品を作り、店頭に並べ、消費者の手に届かせる。その過程には同じ部署でともに働く部下や取引先、様々な業者の人たちが働いている。
※週刊ポスト2010年9月10日号