喫煙者は、つねに周りに気をつかいタバコをふかす。時には自らが虐げられている気分にさえなる。もし吸う人と吸わない人が空間を共有できたら……。これは新たなスタイルの提案である、と作家の山下柚実氏がリポートする。
「ゼロスタイル・ミント」は、JT社内でも極秘で開発が進められてきたという。同社ブランド企画部の能瀬智昭氏が語る。
「技術的には、燃やさないで香りと味を確保する点が苦労しました。たばこの葉と香料との組み合わせ方や、気流コントロールなど、微妙な調整が必要でした。火を使わないためニコチンは軽めで、一服あたりのニコチン量は弊社のマイルドセブン・ワンの20分の1程度です」
たばことは何なのか、を根底から問い直してみようと取り組んだという。
「たばこを箱からとり出す。そして、火を点ける。指に挟む。くわえる。吸う。煙を眺める。香りを嗅ぐ。吐き出す。動作だけでなく、ライターをつけるシュポッという音、マッチを擦る音。会話が生まれる……。たばこの楽しみがいくつも見つかりました」
議論を重ねる中から、たばこの「再定義」が生まれた。「香りを楽しむ大人の商品」。
そう再定義したとたん、自由な発想が次々に出てきた。今のスティック型の紙巻きたばこからはおよそ想像もできないようなスタイルのたばこのアイデアが次々と生まれてきたという。
最後には、「これって、たばこと言えるんだろうか」という範囲にまで、議論は広がっていった。たばこという商品が、根底から問い直された。その結果、たばこがどうしても克服しなければならない問題点が、浮き彫りになった。
「現在たばこをお吸いのお客様は、煙が周りの人にご迷惑をおかけしているのではないか、という心配をされている。そのようなお客様の声にお応えしたい。そこで、『煙の出ないたばこ』=『嗅ぎたばこ』という形態に着目することになったのです」(能瀬氏)
「煙が無くなる」ことが、こうして決まったのである。
※SAPIO2010年9月8日号