株式やFX(外国為替証拠金取引)のように10年で資産10倍を目指すことは難しいが、安定した家賃収入が得られる不動産投資は「ミドルリスク・ミドルリターン」といわれる。ところが昨今、賃料下落、空室率上昇が目立ち始め、思ったように収益のあがらないケースも続出してきているという。
【37歳S氏(製薬会社勤務、年収約900万円)のケース】
これまで、S氏は、結婚後2人の子供を養育する中で、目的意識を持って貯蓄はしてこなかった。しかし、約4年前、不動産業者の営業マンから勧められた23区のはずれの新築ワンルームマンションを投資用に購入。その後、別の中古ワンルームマンションに投資をした(2戸とも土地勘のない場所)。表面利回りはいずれも6%程度。収入が比較的高いこともあって金融機関の審査もスムーズに通り、頭金なしで全額借り入れ(フルローン)をおこしての投資だった。
営業マンの説明のとおり、ローンを家賃で支払い、30年後には返済も終わって自分のものになることは理解できたが、月々の家賃収入から、銀行への返済と管理費および修繕積立金を差し引くと、数千円単位でしか手元に残らないことに多少の違和感を覚えた。
そして、リーマン・ショック以降は保証賃料も下がり、月々の持ち出しが発生するようになってしまった。「これでは投資した意味がない」と思い、複数の不動産会社に売却の打診をすると、中古ワンルームマンションの流通価格は『表面利回りで10%は欲しい』という。10%の利回りを確保するための売却額は、物件当たり500万円以上の持ち出しになる。貯蓄のないS氏は売るにも売れず、不安を抱えたまま、2つの物件を保有している。
なぜこうしたことが起こるのか、不動産コンサルタントの長谷川高氏はこう解説する。
「特にワンルームマンション投資には、賃料下落、空室率上昇の逆風が吹き始めています。マクロの要因としては、日本の少子化が挙げられます。学生数が減少し、学生向け物件の空室率が上昇しています。
次に景気の悪化。地方の大きな工場の近くには、単身者や派遣社員向けの物件がありますが、派遣切りや工場の移転、撤廃などで、借りる人がいなくなるケースが頻出しているのです。不況で借りる人の収入も減り、それが賃料の低下に拍車をかけています。
一方、需要が減少する中、供給はそれほど衰えていません。都内を含め、全国的にワンルームマンションの建設は続いています。空いた土地の利用としては、他にめぼしいものがないのです。このように、需給バランスが崩れたことが賃料低下および空室率上昇の原因となっているのではないでしょうか」(長谷川氏)
※マネーポスト2010年9月号