民主党マニフェストのひとつ「高校授業料の無償化」が今年の春から始まった。政府と文部科学省は、適用対象が『先送り』状態だった朝鮮学校にも、いよいよ適用する姿勢を見せている。朝鮮高校とは金正日を指導者とする朝鮮労働党の下部組織、朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯合会)が運営する教育機関である。果たして朝鮮高校に無償化の資格があるのか。「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)代表の李英和氏が、「呆れた実情は報道機関にも当てはまる」と指摘する。
新聞各社(産経新聞を除く)は今年3月初旬、大手紙と地方紙を問わず、朝鮮高校への無償化適用を求める社説を一斉に掲載した。
「民族差別は許されない」「教育に政治を持ち込むべきではない」「無償化問題と拉致問題は別」「朝鮮学校の生徒に罪はない」――。
一見もっともらしい言葉があふれる。だが、文科省と同じく、ずさんきわまりない主張である。
第1に、「民族差別」の表現はまったく当たらない。学校教育の定める「一条校」の韓国系高校(金剛学園、白頭学院、京都国際学園)は適用対象となっている。第2に、そもそも教育に山盛りの政治を持ち込んでいるのは朝鮮学校である。第3に、無償化問題を拉致問題と絡めているのも北朝鮮のほうである。
事実、北朝鮮の宋日昊(ソンイルホ)・日朝国交正常化担当大臣はこう放言している。「無償化が実現すれば、(拉致再調査問題で)やるべきことはやる」(4月23日付の朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」)と。
最後に、「朝鮮学校の生徒に罪はない」のは当然だ。罪は朝鮮学校にある。無償化問題で、生徒が被害者だとすれば、加害者は朝鮮労働党と朝鮮総連である。
「調査なくして発言なし」の鉄則を忘れた社説の洪水を見て、筆者は慌てた。3月11日に、文科省記者クラブに出向き、緊急の記者会見を開くことにした。
会見では、朝鮮高校の教科書を含め朝鮮総連の非公開内部資料を山ほどそろえ、朝鮮学校の学校運営と教育内容の実態を客観的に提示したつもりである。ところが、記者会見の内容を報じたのは1社(産経新聞)だけで、無償化適用に賛成の社説を掲げた新聞社は完全無視を決め込んだ。朝鮮学校の学校運営と教育内容を不問にする姿勢は文科省と共通する。
それでは、文科省と報道機関はいったい何を基準に、朝鮮高校への無償化適用を主張するのか。驚いたことに、文科省は学校の「外形」だけが判断基準だという(川端文科相、8月10日付「産経新聞」)。
つまり、日本の高校に類似した時間割が組まれているか、図書室や保健室などの施設が整っているか、といった形式的なことばかりなのである。
※SAPIO2010年9月8日号