2010年8月、大相撲の野球賭博問題は、警視庁組織犯罪対策3課の捜査員が100名以上が投入され、9月12日に初日を迎えた秋場所までの立件を目指して急ピッチで捜査が続けられていた。その目的は何だったのか? 当時の状況をジャーナリストの伊藤博敏氏が解説する。
「今回の捜査には二つの目的がある。第一に、相撲界を浸食している暴力団を排除すること。第二は、暴力団の資金源になっている野球賭博を徹底的に解明、資金源を断つことだ。第一の目的は、マスコミの力を借りて達成しつつあるが、警察にとっての真の目的である賭博の解明は、正直、難航していてこれからが正念場になる」(捜査関係者)
非合法で、しかも「言った言わない」のトラブルが生じがちな野球賭博は、まさに闇社会が取り仕切る世界である。「信用」で成り立つから、それが壊れた時の『回収』には暴力が必要となる。さらに何十人もいる胴元にもランクがあって、数百万、数千万円単位で儲ける大口顧客は、勢力の大きい暴力団が引き受けるというピラミッド型組織だとされている。警視庁は、まだそこに行き着いていなかった。
2010年8月段階で、警視庁は、琴光喜への恐喝で元幕下力士の古市満朝被告を逮捕起訴、阿武松部屋の元幕下力士への恐喝で、古市被告と山口組系暴力団員3名を逮捕している。
既に、琴光喜と前・大嶽親方は、賭博を認め角界を引退、賭博罪での立件は容易だろう。また、胴元に仲介していた阿武松部屋の元幕下力士までは辿りつける。ただ、その先は同幕下力士の証言によると、彼に声をかけた暴力団員が死んだと証言しており、辿りつくのは難しい。
文■伊藤博敏(ジャーナリスト)
※SAPIO2010年9月8日号