角界に巣食う野球賭博の問題だが、警察は末端の力士や力士を恐喝した元力士を摘発することはできたものの、野球賭博の本丸=暴力団にはなかなか辿りつけていない。「だが、警察当局は簡単に諦めるとは考えられない」とジャーナリストの伊藤博敏氏は説明する。
警察の暴力団に対する締め付けは本気である。ターゲットにされているのはやはり弘道会だ。「今年を、社会全体で暴力団を徹底排除する年に!」と、檄を飛ばす安藤隆春・警察庁長官は、まず弘道会の勢力を徹底的に削ぐよう指示を出している。
弘道会は司忍(つかさ・しのぶ)六代目の出身母体であるとともに、山口組ナンバー2の高山清司若頭が会長を務める。現在、護衛の配下組員に拳銃を持たせていた銃刀法違反で有罪判決を受け、服役中の司組長は、2011年4月に出所する予定で、そうなると名古屋を本拠とする2人が、全国の暴力団のトップに並ぶ。しかも弘道会は警察にとって『難敵』であることが知られている。事務所に入れず、情報を出さず、付き合わないのはもちろん、警察情報を漏れなく集め、対策本部の組織と人員配置を調べ、保有車両を割り出したり捜査員の住所などを集めてプレッシャーをかけることまでするともいわれる。
また、高山若頭のガードは徹底しており、行き先には必ず数人から数十人の護衛がつく。対立組織や警察とのトラブル防止が目的だが、一般人との不用意な接触が、「高山逮捕」に繋がらないための措置でもある。新幹線に乗ればグリーン車の座席の周辺を固めるだけでなく、扉の両脇に護衛が立つ。
警察が恐れるのは、この「弘道会方式」が全国に浸透することだ。それには『名古屋の2人』が共存する「ツートップ体制」にしないように、高山若頭を来春までに逮捕しなければならない。2010年4月、「弘道会壊滅戦略」と書かれていたのもうなずける。
約4000人に達する規模の弘道会だが、周辺者まで含めれば既に1000人以上が逮捕された。司組長側近の森健次・司興業組長を7月2日に逮捕した時の詐欺容疑の内容は、他人名義で賃貸マンションに入居していたというもの。
弘道会幹部に対する「なんでもあり」の逮捕が続いている。ペットを逃がした同居人を殴った幹部は暴行傷害罪、飼い犬を馬鹿にされて「わびを入れろ」と怒鳴った幹部は暴力行為法違反である。
「弘道会の弱体化=山口組の弱体化=暴力団全体の弱体化」という図式で、まず弘道会を徹底的に締め上げるのが警察庁の方針だ。角界摘発に先だって、暴力団の活動を封じ込める対策を充分に施してきたことは特筆すべきだろう。
※SAPIO2010年9月8日号