リーマン・ショックを経て、アメリカはそのプライドまで失ってしまったのだろうか――こう感じているのはジャーナリストの落合信彦氏である。そう感じたきっかけは、同氏が宿泊したアメリカのとあるホテルのレストランでのできごとだった。
「朝食をとったあと、チェックをもらうと、一番下に『gratuity』と書かれている。これはチップを意味する単語だ。
その欄に料金の15%なら何ドル、20%なら何ドルになる、ということがいちいち書いてある。もちろん、日本と違ってアメリカにはチップ文化が根付いている。チップが現場従業員の重要な収入源になっているのだから、サービスを受けたらいくらか置いていくのがマナーではある。
しかし、それはあくまでこちらがサービスの質を判断して、『感謝の気持ち』として置いてくるものだ。これでは、『この額をよこせ』と要求を突き付けられているのと変わらない。まったくみみっちい話である。
さすがに、ビバリー・ウィルシャー(映画『プリティー・ウーマン』で使われた街でいちばん高級なホテルのこと)のレストランはそういうことをしないが、四つ星以下のホテルや大部分の巷のレストランも同じである。ここまでアメリカ人の心がセコくなってしまったと、つくづく感じさせられた。
聞けば、レストランのウェイターをしている男は、リーマン・ショック前までは大学の講師をしていたのだという。不況で職を失った境遇には同情しないでもないが、貧すれば鈍するとはこのことである」
※SAPIO2010年9月8日号