他紙を出し抜くスクープのはずが、1日と経たないうちに「大誤報」となってしまった。
2010年8月30日の日刊スポーツ。1面でサッカー日本代表の新監督を「ホセ・ペケルマン元アルゼンチン監督」と断定的に報じた同紙だったが、その日の午後には元ユベントスの名将「アルベルト・ザッケローニ監督」の就任が発表されてしまったのである。
日刊スポーツに経緯を問うと、苦渋に満ちた返答が寄せられた。
「今回の件について多くの取材を頂いていますが、全ては報じている通りです。内容については、担当記者とデスクがギリギリの時間と情報の中で決断したものです。それ以上についてはお答えしていません。ただ、サッカー協会内部でも代表監督の選定について様々な情報が錯綜する中、ギリギリの決定であったということなのだと思います……」(編集局)
実は、日刊スポーツが大誤報してしまった背景には、協会内での激しい“派閥抗争”が見え隠れするのだ。当時のある協会関係者の話。
「新監督選びに関して詳細を知っているのは、協会内でもわずかな人間だけ。情報を共有していたのは、小倉(純二)会長と大仁(邦弥)副会長、原(博実)技術委員長のみという極秘プロジェクトだった。川淵(三郎)名誉会長ですら、詳細を知らされていなかったとのもある。おそらく日刊スポーツは、会長と距離を置く非主流派の誰かから、情報を得ていたのではないか」
とはいえ、1面で大々的に取り上げるほどだから、日刊スポーツの情報源は相当の大物だったはずだ。ある一般紙スポーツ担当記者がいう。
「選考のプロセスは、まったくといっていいほどメディアに漏れてきませんでした。そんな中で、これまで唯一情報が入ってきていたのが日刊スポーツだった。元オランダ監督のファンバステンが候補にあげられたことを始め、具体的な選考過程を事細かく報じていましたからね。ところが最後は誤報となった。情報漏れに怒った協会中枢が、わざと偽りの情報を流したと分析する人もいます」
誤報の裏側には、政界さながらの諜報戦あり?
※週刊ポスト2010年9月17日号