9月14日に実施された民主党代表選をめぐって、大マスコミは反小沢報道に終始した。とはいえ、こうした“偏向報道”はネットによってはっきりと暴かれる結果になったのだが、それでもまだ日本のネットメディアは米国と比べると、その“真価”を発揮しきれていないという。以下、ITジャーナリストの佐々木俊尚氏が解説する。
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今回の民主党代表選は、ネットという鏡で、マスコミの偏向報道がはっきりと可視化されるようになった端緒と位置付けられるかもしれない。
大新聞を中心とするマスコミは、民主党代表選に関する報道で、政策論争をなおざりにして小沢一郎氏の「政治とカネ」の問題ばかり採り上げ、印象報道に終始した。こういった偏向報道に不満をもつネットユーザーのなかには、反マスコミの立場から小沢氏を支持する者も少なくない。他にも様々な要因はあるが、大手新聞とネットの世論調査で、菅氏と小沢氏の支持率が逆転する一因になったのは間違いないだろう。
これまで新聞は何の疑いもなく受け入れられ、世論が形成される上で大きな役割を担ってきたが、ネットが鏡のように代替メディアとして機能した結果、その報道を異常だと気付く人が増えてきたということだ。
では今後、大手メディアとネットメディアの関係はどうなっていくのか。それを考える上で、まず新聞が世論を形成するプロセスを分解してみよう。
【1】一次情報を取材し、記事にして読者に伝える情報伝達機能。
【2】大量の一次情報から読者に必要な情報だけを取捨選択する情報集約機能。
【3】その情報がいかに重要なのか、どういう意味があるのか分析し、世論を喚起する議題設定機能。
【4】調査報道による権力監視機能。
これまで新聞が担ってきた、この4つの機能がネットにとって代わられようとしている。 現在の日本では、【1】については既にツイッターやブログなどが新聞やテレビより速く一次情報を伝達するようになっている。
【3】もかなりネットメディアで代替されるようになってきたといえる。弁護士や大学教員など、その道のプロたちがブログやツイッターで発言。その専門的知見は、今や新聞記者の解説記事を凌駕している。
例えば今回の民主党代表選でも、大手メディアがいかに偏向報道をしているか、詳細な分析を加えたブログやツイッターへのつぶやきが非常に多かった。そういったマスコミに対する反発の輪が広がり、ネット上での小沢支持の拡大に繋がったのではないか。
しかし、日本では現段階は【2】はまだ進んでいない。ネットと全く異なる新聞本紙の世論調査の結果は、ここに原因があるのではないかと私は見ている。日本では、情報を重要度に分けて整理して見せる機能を持つのはほぼ新聞だけだからだ。
新聞が一面トップに連日、小沢氏のネガティブな情報を報じれば、それに左右される人が一定数いるのも当然だろう。
だが、アメリカではさらにネットメディアによる代替が進んでいる。
【2】については女性ジャーナリストが始めた「ハフィントンポスト」がその一つだ。情報の収集や選別を行ない、ニュースに有名ブロガーによるコメントをつけるなどして配信する情報集約サイトで、世論に影響力を持つまでにユーザー数を伸ばしているのだ。
ワシントンにある「ポリティコ」という政治記事を専門に配信するニュースサイトも同じだ。元新聞記者が多数参加して編集者を務め、定評を集めている。
【4】の調査報道についても、富裕層からの寄付金を集めて運営するNPO「プロパブリカ」が今年、ネットメディアとして初めてピューリッツァー賞を受賞したことで、その壁を突き破った。受賞したのは、ハリケーン・カトリーナの災害事故で極限の状況に追い込まれた医師や看護師の様子をレポートし問題提起をしたものだ。
先日、私はニューヨークタイムズの東京支局長から取材を受け、「なぜ日本にはこういったサービスがないのか」と聞かれた。一瞬、言葉に詰まったが、「時間の問題でしょう」と答えておいた。日本でも新聞のウソがすべて白日のもとにさらされる日が近づいている。
※週刊ポスト2010年9月24日号