脳科学者の茂木健一郎氏は、今年8月末、神宮球場にプロ野球を見に行った。東京ヤクルトスワローズ対横浜ベイスターズ。球場に出かけるのはずいぶんと久しぶりだったこともあり、大いに楽しんだというが、そこで茂木氏が考えたこととは……。
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「ベースボール」と「野球」は似て非なるものであるとはしばしば言われる。大リーグに比べて、日本のプロ野球の応援が幼い、うるさいという人もいる。しかし、私は、それぞれの国に、それぞれの応援文化があってもいいのではないかと思う。
野球のやり方についても、日本野球はせこい、日本選手は大リーグでは通用しないと言われ続けてきた。しかし、実際に野茂英雄選手や、イチロー選手、松井秀喜選手が海を渡って向こうで大活躍すると、日本のプロ野球も捨てたものではないということが実力において証明された。
それぞれの国に、独特のやり方がある。要は、「ガチンコ」で勝負をつける機会が与えられれば良い。そうすれば、独善的にならずに済む。大リーグが主導して始まった「ワールド・ベースボール・クラシック」で日本が二連覇した今、日本の野球がアメリカのベースボールに比べて二流であるという人は、もはやいないだろう。
7回の裏、ヤクルトのラッキーセブン。アメリカでは、7回のホームチームの攻撃の前に観客が立ち上がり、身体をのばして、『私を野球に連れてって』という歌を合唱する習慣がある。アメリカ人たちが立ち上がった。ぼくも、一緒に立ち上がった。
周囲の人は傘を動かして『東京音頭』を歌っている。いきいきとした「文化交流」のあり方が、そこにあった。
自国内でしか通用しない「ガラパゴス化」が進む日本。苦境を脱するために、必ずしも外国の真似をする必要はない。日本のプロ野球は、「ベースボール」と違う道を行って、「世界一」になった。
要は、ガチンコの舞台で、世界と実力勝負をすることさえ忘れなければ良い。「清く正しい日本野球」のあり方からは、学ぶべきことがたくさんある。
※週刊ポスト2010年9月24日号