パラグアイに雪辱、グアテマラに完勝し、好スタートを切った新生サッカー日本代表。いまだザッケローニ新監督の手腕は未知数だが、それ以上に気がかりなのが通訳の存在だ。ザッケローニの横で白い歯をこぼしていたイタリア伊達男、その名は宮川善次郎という。顔と名前以上にギャップがあるのが、彼の通訳。
8月31日の監督就任会見時のことだ。目前に迫ったパラグアイ戦の先発メンバーについて、宮川氏はザッケローニの言葉をこう訳した。
「原さんが責任をとる」
突然、監督を選んだ原博実技術委員長の名前を出し、いきなり責任逃れとも取れる発言をしたのだ。実はこれ、「今回はメンバーを招集した(代行監督の)原さんが先発を決めるのが正しい」と発言したものだった。
宮川氏の“超訳”は止まらず、来年1月から始まるアジアカップの目標を聞かれた時にザッケローニが「絶対的な主役を演じなければならない」と語ったのに対し、「トップ3を狙う」と、勝手に付け加えた。それを受け、翌日のスポーツ紙には「(ザッケローニは)自らノルマを課した」と大きな見出しが躍ったのである。
これでは通訳失格ではないかと思ってしまうが、それもそのはず、彼は通訳の専門家ではなかった。スポーツ紙記者が語る。
「宮川さんはイタリアのスポーツマネージメント企業の社長さんです。ザッケローニを原委員長に紹介した人物でもあり、監督選びに困り果てていた協会は頭が上がらず、通訳もお願いしたようです。日伊ハーフですが、日本で生活をしたことはありません」
通訳は外国人監督の場合、非常に重要なポジションでもある。自身もコーチ兼任で通訳の経験もあるサッカージャーナリストの湯浅健二氏がいう。
「通訳は言葉を正確に訳すだけでなく、監督の感情や微妙なニュアンスを伝えなければいけない。また、監督のサッカー観を説明するためにコーチの資格やそれに準ずる知識を持っている必要もあるのです」
この宮川氏の“超訳”について日本サッカー協会は、宮川氏はあくまで臨時通訳だったとし、こう説明した。
「アジアカップ3位という発言は、監督との契約交渉時に言及していた話で、その意図を汲んで発言したのでしょう」と語った。なお、正式な通訳は過去に元日本代表FW・大黒将志がセリエAのトリノ在籍時に通訳を務めた矢野大輔氏が就任した。
※週刊ポスト2010年9月24日号