チリ北部、サンホセ鉱山で起きた落盤事故。33人が命をつないだ奇跡は、中間管理職の「危機管理術」という点から見ても示唆深い。採掘プロジェクトのシフトリーダー、ルイス・ウルスア(54)についてはこんなエピソードがある。
今回、落盤の強い揺れと激しい爆音に接してウルスアがリーダーとして最初に取った行動は、「現状把握」だった。鉱員に対してシェルターへの招集を促し、安否確認をする。そして鉱山経験が豊富で坑道を把握する3人のベテランを選び、落盤現場の視察を命じた。
世界120か所の災害を調査してきた防災システム研究所・山村武彦所長の解説。
「非常時のリーダーに求められる能力は洞察力や統率力など複数あるが、何より大切なのは、トラブルを単純化する能力です。ウルスアは事故現場を視察することで、『地下400メートル付近の坑道が落盤で完全に塞がっている。これは救助隊を待つしかない』と長期戦を覚悟したんでしょう」
山村氏は鉱員たちが食料を食べ尽くす寸前に生存が確認されたのも偶然ではない、と続ける。「損害状況から救助隊が来る日をシミュレーションし、分配のペースを考えたのではないか」
20代初めに鉱員になって31年。まさか齢50を過ぎて、一躍、“時の人”になるとはウルスア本人も思っていなかっただろう。ただし、その資質や日常から積み重ねられたリスクへの備えを改めて見ると有事のリーダーとして、これほど頼もしい人物もいない。
※週刊ポスト2010年9月24日号