チリ北部、サンホセ鉱山で起きた落盤事故。33人が命をつないだ奇跡だが、彼らには精神面での心配が残る。 仮に鉱員の救出日時を12月上旬としても発生から4か月を経ることになる。精神科医の和田秀樹氏の危惧は、次の通りだ。
「心配なのは肉体的限界よりも精神に異常をきたす作業員が出ることです。人間は密室に長期間、閉じ込められると拘禁反応が出てくる。幻覚妄想が見えたり、檻に捕獲された動物のように壁にわざと体当たりしたり、一過性の精神病状態になることもある」
過去にはこんな驚くべき実験結果もあった。東亜大学医療学部の中田敬司准教授の話。
「99年末、ロシアの研究所が宇宙での長期滞在の可能性を試すため、各国被験者に外部と遮断された環境に110日滞在させるという実験を行ないました。その結果、被験者同士のケンカや人間関係の悪化が相次ぎ、ロシア人男性がカナダ人女性にキスを迫るという事態まで発生した。日本人被験者は耐え切れずに60日目でリタイヤして退室しました」
拘束期間が長引くにつれ、「性の処理」についても我慢のレベルを超えてくるという。
「男性同士が密室で禁欲生活を強いられると、過去にアメリカの刑務所で起きたようにホモセクシャルの強姦のような事態になりかねない。リーダーの下での秩序だけではなく、夜間に交代で自慰行為を許すなど寛容な計らいが必要です」(前出・和田氏)
現場では、気を利かせた家族が差し入れの手紙や本に紛れてヌード写真の切り抜きなどを送っているという。それも作業員たちのストレスを爆発させないための賢明策といえよう。
ただし、救助までに超えなければならない最大の山場はこれから―そう考える専門家も多い。事故現場の心理カウンセラーたちが最も心配するのは、通称「4分の3症候群」である。
前出・中田准教授の解説。
「期限やゴールを知らされると目的完了日の半分を過ぎたころから4分の3にさしかかる時期に、精神状態の悪化がピークに達する。南極基地での2度にわたる調査で報告されている現象です」
鉱員たちに4分の3症候群が出てくるのは、10月から11月頃と見られている。予断を許さない状況はまだまだ続く。
※週刊ポスト2010年9月24日号