警察署と言えば、取調室でカツ丼というのは一昔前の刑事ドラマの話。だが、それほどまでに警察のイメージを左右するテレビのドラマシリーズが、「戦国時代」と呼ばれるほど盛り上がっているという。なぜ今、ブームなのか? そして、どこまでリアルに進化しているのか? ライターの池田道大氏が現役&元刑事の分析をもとにレポートする。
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警部補・安積剛志(佐々木蔵之介)率いる神南署刑事課強行犯係が活躍する『ハンチョウ~神南署安積班~』(TBS系)。シリーズ3の初回では、身代金1億円の強奪に失敗して留置場に入った容疑者の1人を、安積が「(被害者の)娘から父親を奪っても平気なのか」と1対1で説得。見事に共犯者の名前を聞き出すのだが、元警視庁捜査二課管理官の萩生田勝氏の目は厳しい。
「人情味あふれるいいシーンですが、総務部と刑事部は完全に分離され、刑事が留置場に足を踏み入れることはできません。刑事が留置場で取り調べることは100%ありえないですよ」
ほかにも警察ドラマには突っ込みポイントがあるようなので、それらを見ていこう。
【マジックミラーが大きすぎ】
警察ドラマ定番の取調室シーンでは、壁に縦50センチ、横1メートル大のマジックミラーが登場。隣室で被害者が「あの男に間違いありません」と面通しを行なったが、元警視庁警部補で警察評論家の犀川博正氏は、現実とは異なると指摘する。
「マジックミラーはあんなに大きくありません。他のドラマのマジックミラーも全部大きすぎる。通常、警察署のいちばん奥にある取調室に白い陶器の洗面台があり、その鏡がマジックミラーになっています」
【本庁警部も所轄に気を遣う】
このドラマでは神南署に立てこもった共犯者を捕まえるため、本庁から高圧的な警部がやって来て「所轄の人間は黙って見てろ」と強引に捜査指揮を執る。最近の警察ドラマではおなじみの所轄と本庁の上下関係だが、犀川氏はこの本庁警部の態度は“処世術”としてありえないと言う。
「所轄の警部補などに本庁の警部が理不尽な態度を取ることはまずありません。なぜなら、数年後に警部補が警視に昇進して自分より階級が上がる可能性もあるからです。意趣返しされるのが嫌なので、本庁側もそれなりに気を遣う。それが警察の“文化”です」
【「引っ越し業者を装う」はバツ】
木村佳乃主演の『警視庁継続捜査班』(テレビ朝日系)は、未解決の凶悪事件を担当するセクションの物語。第5話では、誘拐事件の被害者宅に大手引っ越し業者のトラックが横付けし、作業員を装った捜査員が逆探知器材などを次々と運び込んだ。萩生田氏が一笑に付す。
「いくら何でも目立ち過ぎ。誘拐捜査時、捜査員はむしろ一般人を装い、目立たないように被害者宅に入ります」
【手帳や拳銃の扱いに「?」】
現役のT警部補はこんな点に違和感を覚えるという。「例えば、警察手帳は紛失防止のために、丈夫な紐で『ズボンに結着』することが規則で定められています。でもドラマだと誰も紐を付けていませんよね。思わず、『規則違反じゃないか!』と突っ込みを入れたくなります。拳銃の扱い方にも違和感がある。刑事はいつも拳銃を持ち歩いているわけではないんです。必要ないと判断したら、署に置いていく。装備で大事なのは拳銃よりも警棒です。実際、犯人逮捕の際には警棒を使うことが多いのですが、ドラマではほとんど見ませんよね。まあ、警棒では画にならないんでしょうが」
※SAPIO 2010年9月29日号