テロなどに備えて実戦的な訓練を積む日本の特殊急襲部隊SATだが、ヨーロッパにはそのお手本となる部隊が存在する。なかでもフランス警察特殊部隊の実力は抜きんでている、と世界各国の部隊を取材したジャーナリスト、笹川英夫氏は解説する。
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犯罪が凶悪化し、テロが頻発する今、世界的に「警察特殊部隊」が必要とされてきている。多くの人がまず真っ先に思い浮かべるのが、米国のSWAT、日本のSATあたりだろう。だが世界各国の特殊部隊を取材してきた身からすれば、歴史的にも、装備やスキルの面からも、一目置かれているのは、むしろヨーロッパの特殊部隊だ。
1994年12月26日深夜。フランスのマルセイユ空港に、アルジェリアからのエールフランスの旅客機が1機、給油のために降り立った。イスラム武装集団によるハイジャックだった。
この時出動したのが、フランスの国家憲兵隊治安介入部隊GIGNだ。後に「エールフランス8969便ハイジャック事件」と呼ばれ、アメリカ同時多発テロ事件に連なる事件であったことがわかったこの事件に、GIGNはどう対処したか。
1班15人編成のGIGNは、3つの班を出動させた。突入開始のGOサインが出されてからわずか20分。双方で1500発の銃弾が飛び交う銃撃戦の結果、4人の犯人は全員射殺。残った人質を無事救出したのだった。
GIGNの本部はベルサイユ宮殿の隣にあり、隊員は国家憲兵隊10万人の中から選ばれたエリート中のエリートだ。
私は訓練に同行したが、そのスピードとテクニックは、間違いなく世界1、2位だろう。ハイジャック事件の解決の仕方を見てもわかるように、常に先手を取り、迅速性で勝負する。特に射撃の腕は秀でており、ライフル200メートル射撃で95点以上という命中精度を誇り、すべての火器のエキスパートである。ハイジャック事件でコックピットにいた犯人を射殺したことでも、その技術がわかるだろう。
※SAPIO 2010年9月29日号