「江夏豊以来の怪物ルーキー」と、阪神の高卒新人投手・秋山拓巳(19)に惜しみない賛辞が送られている。
8月21日の巨人戦でデビュー。その後の3連勝は、いずれもチームの連敗を止めての快挙だ。ペナント終盤、チームの台所事情が苦しい時に現われた救世主といえる。ヤクルト・由規の160キロ近い剛速球や、日ハム・ダルビッシュのキレのある変化球があるわけでもない。打者にタイミングを取らせない球離れの遅さが持ち味だ。
「踏み出した足にしっかり体重をのせていける下半身の粘り。これがあるから遅れて出てくる腕を思い切り振れ、低めにコントロールできる」と、辛口の城島健司捕手も高く評価する。
昨夏“伊予のゴジラ”(愛媛・西条高)と注目されるもドラフトでは阪神の4位指名。「1位でないのが悔しい」と流した涙は、デビュー戦で6回降板を命じられた時も、「これが今の実力」と頬を濡らした。この負けん気が、「プロ入り半年でカーブとスライダーをマスターさせた身体能力」(中西二軍投手コーチ)と重なり、今の活躍を生んだ。
元祖・怪物の江夏は「200イニングを投げてこそエース」と釘を刺す。秋山が育つかどうかは、今年のオフをどう過ごすか、来季以降のプロとしての道筋をきちんと描けるか、にかかっているといえる。
とはいえ、今の秋山は怖いものなし。エースの座を獲得するのもいいが、まずはポストシーズンで存分に暴れてほしい、というのが阪神ファンの本音ではないだろうか。
文■永谷脩
※週刊ポスト2010年10月1日号