国内

中国による深夜の出頭要請に丹羽宇一郎在中大使が応じた理由

 尖閣諸島中国漁船衝突事件に関し、中国政府が丹羽宇一郎在中大使(元伊藤忠商事会長・社長)へ出頭要請をし、同氏が唯々諾々と応じたことをなぜ誰も止めなかったのかと疑問に思う向きもある。商社のトップとして重要な商談に向かうならともかく、領土問題が絡む事案での異例の呼び出しに丹羽氏が独断で対応したと考えるのは不自然である。

 これについて首を傾げるのは、駐レバノン大使を経験した元外交官で作家の天木直人氏だ。

「大使の正式名称は『特命全権大使』であり、天皇陛下の認証を受けた立場ですが、それはあくまで儀礼上のものです。今回のような事案では、丹羽大使から官邸と外務省に報告した上での行動だったのは間違いないと思います」
 
 高度な政治・外交判断が必要とされる案件では関係閣僚会議が開かれる。今回の場合、外相、海保を所管する国交相、漁業関係を担当する農水相、そして入管を司る法相などで開催されると思われたのだが、最後まで会議は開かれなかった。

 そればかりか関係閣僚ではない蓮舫・行政刷新相が会見で、「これは領土問題」と発言して外交認識の未熟さを示し、前原誠司・国交相らが慌てて否定する一幕さえあった。
 
「菅総理はもちろん、前原国交相ら各閣僚も民主党代表選挙の真っ最中だったために、対応は外交に疎い仙谷由人・官房長官に一任された。丹羽大使が呼び出しに応じたのも、仙谷長官の判断だったのではないか」と防衛省関係者が明かす。
 
 だとすれば、仙谷氏が「深夜に大使を呼び出したのは極めて遺憾だ」と述べたのは、実に白々しい話である。

「要求された途端に船員を解放すれば、中国の主張が正しいと認めることになる。官邸は外交や防衛の専門家と協議し、船員の釈放のタイミングなどを総合判断すべきであり、判断が甘すぎたといわざるを得ない」と同志社大学の村田晃嗣教授(国際関係論)が厳しく批判する。

「菅首相は事件発生当初に、『尖閣諸島はわが国固有の領土であり、国内法を適用し、厳格に対応する』といって、国家としての意思を明確に発するべきでした。中国側は、首相が執務時間を代表選の選挙運動に充てる姿を見て、“どうせ今回の事件には対応できないだろう”と考えたのでしょう」と元防衛相補佐官で、拓殖大学大学院の森本敏教授も口を揃える。
 
※週刊ポスト2010年10月1日号

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