為替介入せざるを得ないような15年ぶりの円高局面を迎えて、新聞・テレビには「輸出がダメになれば、日本経済が沈没する」という論調が散見される。だがそれにはさしたる根拠がない。
内閣府や財務省のデータによれば、09年の日本の輸出依存度は11.48%。韓国の43.64%、ドイツの33.35%などと比べ、主要国の中でも圧倒的に低い。もし輸出が低迷しても日本経済全体に与える影響は少ないのである。
さらにいえば、円高が追い風になって、業績を伸ばしている企業は多数ある。
円高による原料の輸入コスト減のメリットを受けているのが、エネルギーや食品、空運関連だ。石油など燃料を輸入する東京電力は「対ドルレートで1円高くなれば年間営業利益が140億円増える」(東京電力広報部)という。
現在の想定レートは1ドル=90円。仮に1ドル=80円となれば、年間1400億円の利益が上積みされると計算できる。
日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)にも有利に働く。NTTは7月、南アフリカのIT大手、ディメンション・データの買収を発表した。買収価格は21.2億ポンドで、7月の1ポンド=135円から9月時点で130円まで円高が進行していることから、約100億円安くなったことになる。
このような状況を見れば、円高は経済全体を沈没させるどころか、活性化させるとさえいえる。
※週刊ポスト2010年10月8日号