大阪地検特捜部による厚生労働省の文書偽造事件の捜査資料改ざん事件(フロッピーディスクに保存していたドキュメントの日時改ざん)で、前田恒彦元主任検事が逮捕されたが、検察にとって「前田事件」が痛かったのは、特捜の威信をかけて進めてきた、小沢一郎・民主党元幹事長の「政治資金事件」に疑問が生じたからでもある。
前田氏は小沢事件捜査に応援検事として参加し、公設秘書・大久保隆規氏の取り調べを担当した。「大阪の前田が大久保の口を割らせた」と内部で評判を得たという供述調書の信用性が、これで大きく揺らいだ。
この調書では、大久保氏が「法の網の目をくぐったダミー献金だとわかっていました」「虚偽記載したのは、あれこれ詮索されるのを避けるためでした」などと、違法献金について全面自供したことになっているが、大久保被告は裁判でこれらの事実を否認している。
大久保被告の調書については奇妙な経緯が多い。最初の聴取で4時間以上も供述しているのに調書は作られていない。村木厚子・厚生労働省雇用均等・児童家庭局長が文書偽造を指示したとされる疑いで逮捕された事件の上村勉被告(村木氏の元部下・公判中)は、検察が「ストーリー」と違う話は調書にしないと訴えている。しかも、大久保被告は起訴後2か月も保釈されなかった。村木氏も起訴後ずっと勾留され続けたが、検察は捜査批判しそうな被告は社会に触れさせないのだろうか。
捜査に関係ない勾留であれば重大な人権侵害である。そして、この「大久保調書」は、なぜか本人の公判の前に、別の被告の公判で証拠提出された。これでは大久保被告に反論権はないといえよう。
※週刊ポスト2010年10月8日号