日々動く為替相場は一体どうやって決まっているのか? 経済学の教科書では「市場の需給が決める」とされているが、実態は違う。為替が大きく動く時には「通貨マフィア」による水面下交渉が行なわれてきたのである。
財務相・中央銀行総裁会議(G20)をはじめとする財政・金融国際会議が通貨マフィアたちの主戦場である。彼らはこうした場でそれぞれの国の経済状況の説明と相手国への希望を交換しつつ、双方が折り合いのつく“適正レート”を決めていく。
『財務官―その権力と正体』(祥伝社刊)の著者で、金融ジャーナリストの須田慎一郎氏が通貨マフィアについて解説する。
「通貨マフィアとは主要7か国(G7)の国際金融担当の事務方トップで構成されるインナーサークルの総称で、日本では財務省内で事務次官に準ずる位置づけにある財務官がメンバーとなっています。また、イタリアとカナダを除いたG5のトップを指すこともあります。
メンバーたちは互いに直通回線のテレビ電話で協議できるシステムを持ち、日常的に連絡を取り合い、国際通貨問題に対応している。財務相や中央銀行総裁の会議は儀式的な意味合いが強く、実際は裏舞台で協議するのが、彼ら通貨マフィアなのです」
命名のルーツは1985年9月のプラザ合意にさかのぼる。当時、貿易赤字と財政赤字の並存、いわゆる「双子の赤字」で苦しんでいた米国は、ドル安政策で輸出競争力を高めて貿易赤字を減らすことを狙い、G5の蔵相・中央銀行総裁をニューヨークのプラザホテルに集めて協調介入の合意を取り付けた。1ドル=240円だった円ドル相場は同年末には200円を切った。
この時に実務交渉を行なったのが各国の財務行政トップであり、彼らが高度な情報を持って密室で迅速に交渉していたことから、「マフィア」と呼ばれるようになったといわれる。
※週刊ポスト2010年10月8日号