1000人もの学生を前にして行う、米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授(57)の講義が日本でもブームを呼んでいる。彼の著書『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)は40万部の大ヒットを記録(8月末現在)。「正義」なんて堂々と語る人がいなかった昨今の日本で、いまなぜ彼の講義が受けるのか?
その講義の特徴は、“難しい事柄をかみくだいていう”のではなく、“身近な題材におけるジレンマから、哲学の問題を考える”こと。これが高い評価を受けているのだ。
たとえば今年六本木ヒルズで約300人の聴衆を前に行われた特別講義の場合は「医師のアポイントメントをとるために配られる整理券のダフ屋」に関するもの。サンデル教授はこう問題提起をした。「市場の適切な役割は何か、道徳的に制限、限界はあるのか」
大リーグ・レッドソックスのファンのサンデル教授は、ワールドシリーズのチケットがすぐに売り切れ、ダフ屋が高額に取引していたことを語り出した。「ダフ屋が高額でチケットを転売してもいいと思う人は手を挙げて。間違っていると思う人は?」
結果は半々。マドンナなどのロックコンサートの場合は?と続けて聞き、「ちなみにこの講義も、インターネットでは5万円でオファーされていたそうです(笑い)。それについては?」と軽妙に質問を重ねていく。
その後、今春中国に行った際に見聞きした話として、「中国の大都市では医師不足が深刻で、医師とアポをとるための整理券を得るために、大病院では長い列ができる。その整理券を転売するダフ屋がいるのですが、このケースについて議論しましょう」
コンサートチケットの転売も医師の整理券転売も、中身は同じダフ屋行為。整理券の転売に賛成する“少数派”は、「売り手と買い手の間で自由な合意が成立している」と弁護したが、「ダフ屋により整理券が高騰して貧しい人が変えない場合、彼らの権利を侵害しているのでフェアじゃない」と反論が。
また、「マドンナのコンサートは娯楽ということでまだ許されるかもしれないが、医療行為に関してこうした不平等が生じることはフェアではない」と“取引されている財の重要性”も論点にはいってきて議論は白熱。
ここで一度、ふたつの対立点、新しい論点について教授がまとめた。さらにいくつか新しいジレンマの例をあげて、さらにこの問題における“正義”について、議論を深めていった。どんどん手の挙がる数が増えていくのが印象的。
この講義はあっという間の2時間、最後はスタンディング・オベーションで幕を閉じた。
※女性セブン9月23日号