昨今、飼いきれなくなったペットを捨てる無責任な飼い主も多いようだが、「犬のためなる死ねる」そう語る、世界一の“犬屋稼業”(ドッグショップ)青山ケネルス社長・吉澤英生さんが、犬と飼い主の幸せな関係について語った。
「犬を育てるのは子育てと同じなんです。子供は面倒になったからって捨てないでしょ? 犬だって簡単に捨てるのはおかしい。それと同じで愛情を持って心がしっかり結ばれていれば、多少厳しくしつけたって、逆に甘やかして育てたってかまわない。でも、それを放棄して、誰かに責任をおしつけるようでは、犬好きを名乗る資格もないと思うんだ。家族の一員になると思えば、いい犬に出会ってほしい――売る側の私の責任は重大だから、本当にいい犬が見つかるまで探すんです。だから、せっかく買いたいと思える犬に出会えたんなら、理性を持って飼ってくれるとありがたい」
“貧乏人が犬を飼っていいのか?”。そう問われるとドキッとする人も多いだろうが、これは、精神的なことを指す。
「私は犬を飼うには資格がいると思っています。資格というのはプライドのことです。お金がないとか、そんな単純なことではなくて、自分の生き方にプライドがない人、そして、犬のプライドを尊重できない人は犬を飼う資格がないと思うんです」
現在の日本はペットであふれているが、ペットの先進国である欧米から見ると、まだまだ後進国だとも指摘する。
「いちばん感じるのは、日本では、道端の植木などに“犬におしっこさせないでください”とか看板が立ててあるでしょ? そんなの当たり前のことだよね。欧米でそんな看板を立てたら怒られてしまう。みんなプライドを持って犬を飼っているから、かえって失礼。そういう面でも、日本はまだまだだと思う。犬のしつけ方の本はたくさんあるけど、いい犬の見分け方とか犬種についての本、素晴らしい犬との接し方などを書いた本が少なすぎるから、知識も少ないんだよね。犬の捉え方や接し方は文化のバロメーター。先進国ほど捉え方がきちんとしています」
昨今、洋服で着飾って散歩している犬も多くなった。
「先進国ではおもちゃのように犬を扱ったりはしない。“ただかわいい”という気軽さは、日本独特のものだと思います。洋服も、寒いときに外に出なきゃならなくて、ちょっとスカーフで包んで車まで連れて行く、というのならわかる。飼い主として当然の気持ちだから。でも、犬は歩いているときは寒くないんだ。天然のコートを着ているからね。犬のために何かを買ってあげるのが、犬への愛情と勘違いしているんじゃないかな。いくらお金があったって、犬は服を着るのは嬉しくないんだ。それより天然の毛並みという立派なコートを持っているんだから、それをピカピカにして、自慢して歩いたら犬も嬉しそうな顔して堂々と歩いている。そういうもんなんだ。それに、犬は指先に体重をかけて体重をささえている。だから、靴や靴下なんかでそれを覆われると、滑って歩けなかったりする。小型犬だと骨折することもあるから、犬にとってはたまらないと思うんだ。いまは洋服を着せるために犬を飼うという人まで出てきているけど、それでは本末転倒! 本物の犬好きとはいえないよね。犬はその人を表す象徴だとイギリスの上層階級の人たちはいっていたけど、もっと犬の気持ちを考えてほしいんだ」
※女性セブン2010年9月23日号